それぞれの四季/髪長姫「歴史の中での女たち」
尹美恵(ユン・ミヘ 歴史研究家)
最近の若い子たちの頭は、赤・青・黄色とまるで信号なみにカラフルだが、「黒髪は女の命」と言われた時代もあって、なんせ「髪長姫」なぞは、その見事な黒髪のおかげで、人も羨む女性最高の地位をゲットしたのだから。
和歌山県の海沿いの町、御坊市に「九海士(くあま)の里」と呼ばれた集落があった。その昔、百済から9人の海士(あま)が渡ってきて住み着いたので、そう呼ばれたという。
1300年前、この九海士の漁師夫婦に女の子が生まれたが、髪の毛が1本も生えてこない。
どうしたものかと悩んでいたある日、海が金色に光り輝き、潜ってみた母親は親指大の金の観音像を得た。その観音様に祈願すると、あら不思議、女の子の頭にはフサフサの豊かな黒髪が。
やがて髪長姫の評判は都に伝わり、右大臣藤原不比等の養女となり、文武天皇の妃となった。この髪長姫とは、聖武天皇の生母、宮子姫である。とまあ、伝説と史実がごちゃまぜになったストーリーだが、最近、九海士の近くで、実際に百済からの渡来を裏付ける遺跡が発掘された。日本最古の青銅製ヤリガンナの鋳型が発見された堅田遺跡(紀元前3世紀後半)である。
ここから4棟の松菊里型住居が見つかったのだ。松菊里とは忠清南道扶餘にあり、扶餘とは言うまでもなく、後に百済の王都が置かれたところである。
なお霊験あらたかな小さな観音様は、安珍・清姫で有名な道成寺の秘仏となっている。
(このコラムは毎月第1月曜日に掲載します)