私の会った人/渥美清さん


 渥美清さんが亡くなってはや3年。「フーテンの寅さん像」が、地元の東京都葛飾区柴又の京成・柴又駅前に完成し、8月29日の除幕式には3000人のファンが集まった。

 わたしが渥美さんにお会いしたのは、数年前の暮れ、松竹・大船撮影所での「男はつらいよ」の本番の最中だった。張り詰めた緊張感が漂い、あたりはピリピリしていた。そこにお邪魔したのだが、渥美さんは、あの細い温かな目で「どうぞどうぞ、何でも聞いてください」と声をかけてくれた。

 その心地好さに誘われて4〜5時間程ご一緒させて頂いた。このシリーズの成功の秘訣についても、山田洋次監督との出会いを真っ先にあげた。「持続は力なりというのは、この人のことでしょうね。鬼面、目くらましで撮る人が多い中で、黙々と、1つの作品を作り続けるのは大変なこと。身を持って教えられました。尊敬しています」と語った。深い人生観が秘められた言葉だと思った。

 金日成主席が大の寅さんファンだと知ると「役者としてとても有り難いですね。そうやって熱心に見て下さるのは。もし、自然に、うまく、いい機会があれば、朝鮮に行ってみたい」と嬉しそうだった。

 朝鮮の統一問題に話が及ぶと「朝鮮民族は賢い人たちだから、何が大切かということをよく知っている。昔からあったその力と情熱がやがて実を結ぶでしょう。どうぞみなさん、幸せになってください」と語った。さりげないが、思いやりの込った言葉が懐かしい。(粉)