えこのみっくナビゲーター/新しい年金制度「日本版401K」って?
老後安泰か――「うたかたの夢か」
投資結果で額が増減
将来もらえる年金額が増えるも減るも投資の結果次第、成功すれば老後は安心、失敗すればお先真っ暗――。こんなニュータイプの年金制度が、日本でも来年秋にお目見えしそうだ。受取額を企業が保障する従来の企業年金とは異なり、加入者本人が掛け金を好みの金融商品に投資して運用、その結果で受取額が変わるというもの。導入から20年で2500万人加入と急速に普及する米国の「401K」にならって「日本版401K」と呼ばれる。個人責任が格段に増すうえ、加入者が必ず得をするとは限らない、ハイリスク・ハイリターンの性格が色濃いだけに、今後、定着していけるのか注目される。
今までのタイプと違うの?/加入者が積立、自分で運営
従来の企業年金と401Kの最大の違いは何か。
それは、企業が加入者の掛け金を積み立て、企業の責任で支払額を保障する従来の企業年金と違い、401Kは加入者本人が積み立てて個人投資の形で運用し、投資の成功・失敗、受取額の増減の責任も個人が負うという点だ。
日本の年金のほとんどは、企業が支払額を最初に決め、その金額に達するよう掛け金を積み立てていくもの。給付額がまず設定されるので「確定給付型」と呼ばれる。国民年金や厚生年金などは皆、このタイプだ。企業は支払額を保障できるように資金を運用するが、うまく行かなければ、株式を売ったりして不足分を穴埋めしなければならない。
これに対し、401Kは「確定拠出型」と言われ、支払額ではなく掛け金(拠出)の額がまず決められ、それを企業ではなく加入者個人が積み立てる。この時点で受取額は確定しておらず、働いている間の運用結果によって変わる。一定の年齢に達した時や、死亡および高度障害になった時には、年金か一時金の形で受け取れる。運用方法は株式や預貯金など自由だ。
掛け金は生命保険会社や信託銀行などの資産管理機関が保管するが、運用はあくまで加入者の自己責任。投資が成功すれば受取額は増え、逆に失敗すれば目減りするが、これらはすべて加入者の責任となる。
<従来の年金と401K ここが違う>
確定給付型(従来型) | 確定拠出型(401K) | |
誰が 積み立てる? |
企業 | 加入者。企業が拠出した掛け金を個人で積立 |
誰が運用? | 企業 | 加入者。好きな投資先を自分で選んで運用 |
支給額は 決まっている? |
最初に決める。その額に従って掛け金も決まる | 加入者の投資実績結果によって増減 |
運用のリスクを かぶる主体は? |
企業。失敗した場合は支給額に足りない分を穴埋め。支給額に変動は無い | 加入者。 投資に失敗しても本人の責任。失敗した場合は老後の所得保障に不安も |
転職したら? | そのつど勤め先の年金を脱退。退職金も年金も、勤続期間が短いほど支給額は少ない | 個人で資産を管理するため退社しても積み立てた金は手元に残る。転職先にも持っていける |
勤め先が 倒産したら? |
約束された額を受け取れない危険性も | 自社株で積み立てた場合などを除き、ほぼ心配なし |
利用者に得?損?/リスク増えるが見返りも大
401Kは、株式や投資信託などの個人投資と同じく、ハイリスク・ハイリターンの金融商品である。
企業が年金額を保障する従来の年金と違い、401Kでは加入者個人の責任が格段に重くなる。
運用に成功すれば将来は安泰だが、失敗した場合、老後に必要な所得が確保できなくなる恐れがある。これに対する企業の責任はないから、当然、追加負担もなく、所得保障に不安が残ることとなる。
日本ではこのようなタイプの年金はなかったことから、導入を不安視する声も少なくない。
その一方で、401Kを利用するメリットもある。最大の利点は、転職の際に損が生じないことだ。
従来の年金は終身雇用・年功序列が前提にあるため、長く勤めた人ほど厚遇され、短いと金銭的に不利益が生じてしまう。転職のたびに勤め先の年金を脱退しなければならないので、5年や10年で退社すると、年金はわずかしかもらえない。
しかし、401Kは資産が個人管理で、勤続年数も関係ない。退社しても積立金は個人の手元に残り、転職先にも持っていける。この制度を「ポータビリティー」という。
また、従来の年金では、会社が倒産すると約束された金額が受け取れない危険性が生じるが、個人管理の形を取る401Kなら、自社株で積み立てた場合などを除き、倒産の影響はまずない。
金融ビックバンの一環
401Kの導入は、政府が進める金融システムの抜本的改革、日本版金融ビッグバンの一環である。
金融ビッグバンは、日本の資本市場への内外のカネの流入を狙ったものだ。資金運用の選択の幅を広げ、手数料や税などの取引コストを低くするなどの一連の施策は、資本の流動化を促すために取られた。
国内の個人金融資産は、預貯金が約700兆円、保険が約300兆円と、生活の安定に関わる蓄えが大半を占めている。
この蓄えを株や債券、投資信託などの資産運用に回させて、資本市場を活性化させようというのが、金融ビッグバンの目的だ。個人投資の401Kは、この目的に合致する。
また、企業にとっても好都合と言える。
日本では株式市場の低迷や低金利で、企業年金の運用が難しいとされ、運用に失敗した分の穴埋めが企業の重荷になりつつある。しかし、401Kに切り替えれば、運用責任は加入者に行くため、投資失敗の責任を負うことはなく、穴埋めの心配はなくなる。