診察室から/同胞社会も男女共生に

朴京林(パク・キョンリム 京都大学婦人科学産科学教室医員・研究生)


 「おめでたですね。妊娠2ヵ月の半ばで出産予定日は○月×日です。少し出血があって切迫流産の疑いがありますから安静にしてください」

 と、ここまでは産婦人科医が外来でよく行う会話の一節である。ところが、ここ2年間ぐらいであろうか患者さんから以下のような言葉が返ってくる事が多くなった。「仕事が忙しくて休めないんです」とか、「明日から遠方に出張の予定なんですけど、何とかなりませんか」等々。

 そこで、この頃はこちらから患者さんたちに「何かお仕事なさっていますか?」と問うことにしている。すると、初産婦の場合10人中8人位、すでに1人以上の子供を抱えた経産婦でも3人位の割合で働きに出ているという。つまり、結婚した女性たちのうち、俗にいうところの結婚=専業主婦=永久就職の構図があてはまるのは、おおよそ20%程であるというのが私の診察室での実感である。

 折しも日本では、バブル後の不況の嵐の中で、女性も家計の一旦を担わざるを得ないという苦しい台所事情からの突き上げが相当厳しいようである。とにもかくにも社会全体が必須事項として男女共生を唱える昨今、われわれ在日もその例外ではあるまい。

 今年の春、ある日本の有名歌手の夫であるダンサーが、彼らの一粒種である男の赤ちゃんを抱っこしたポスターが大変話題になった。キャッチフレーズは、 「育児をしない男を父とは呼ばない」 である。在日のアボジたちいかがですか。何か説明しがたい居心地の悪さを感じているようであればむしろ大丈夫。是非その気持ちを言葉に変えて目の前のパートナーと語り合って欲しい。

 21世紀を目前に控えた世紀末、既存の価値観やシステムが制度疲労を起こし、社会の構造が大きくうねり始めている。今こそ、人を健やかに生み育む人類存続の至上命題について、考えてみてはどうだろう。ひとりひとりの妊娠、出産とそれに続く育児こそが、今も昔も、人類の始まりなのだから。