サバイバル焼肉戦争の現場(中)/伸び率1位 焼肉屋さかい


異業種から参入

 昨年秋、岐阜県に本社を置く広域チェーン「焼肉屋さかい」(以下さかい)が都内に初めて出店した。

 「味は値段相応。サービスも悪くない。はっきり言って近所には来て欲しくないね」

 やはり昨年、都内で焼肉店を始めたある同胞は、様子を見に行った感想をこう語った。「新参のウチにはまだ常連も少ない。新規の客を取り合って、勝てるかどうか不安」と言うのだ。

 「さかい」の第1号店が岐阜市内にオープンしたのは、1993年10月。以降わずか6年で、22都府県に120店(FC含む)を展開する急成長ぶりだ。

 創業者の坂井哲史会長(51)は、刀剣類の製造販売から外食産業に参入した。焼肉に目をつけた動機は何だったのか。

 「市場性の高さです。日本人の食生活で肉料理の比重が非常に大きくなり、中でも薄く切った肉をタレにつけ、箸で食べる焼肉は日本人に最もマッチしている。提供方法を日本人の好みに近づければ伸びると確信しました」(坂井会長)。

 

「通好み」避ける

 この言葉から「さかい」の戦略を読み解けば、「焼肉の日本化による新しい客層の開拓」ということになる。実際、メニューこそ「キムチ」「ビビンバ」「ユッケ」などの名が並ぶが、シンプルな木目調の内装など、全体の雰囲気に、朝鮮的なものは感じられない。

 坂井会長は「日本人の目から見ると、従来の焼肉店には通好みというか、入りづらい要素が少なからずあった。実はそこがポイントなんです。低価格も大事ですが、焼肉の普遍的な魅力を、より日本人が親しみ易い形にしていくのが我が社の方針」と力説する。

 地元の同胞業者の間には、明らかに警戒感がある。

 岐阜県瑞浪(みずなみ)市の焼肉店「花本屋」は創業30年。売りものにしてきた辛めの味つけには、チェーン店とは明らかに異なる個性がある。

 しかし、両親とともに店を営む全永秀さん(28)は、「うちにも時折、焼肉は初めてというお客さんが来る。そういう客層が、大手チェーンの味に慣らされて行くのがいちばん怖い」と話す。

 同市内には8月に「さかい」がオープン。若い客層を中心に、出足は快調だという。

 

民族の垣根なし

 料理の生まれに国の違いがあっても、日本の外食市場に国境線が引かれているわけではない。焼肉の魅力は客だけでなく、新たなライバルの出現も誘う。

 日経流通新聞の調べでは、98年度の朝鮮料理店の経常利益率は7.6%で中華料理と並んで全外食業態中トップ。中でも「さかい」は、全外食企業の中で売上高伸び率が2位、経常利益率が18位で、ともに業界内では1位だった。「客は日本人」との発想を戦略に徹底し、市場を広く設定した結果と言える。

 「今や焼肉業界に民族の垣根はありません。ターゲットとする客層を引き付けるために、いかに素早く事業を展開するかが要でしょう」(坂井会長)。

 同社は再来年の春にも200店体制を達成する見通しで、その先には500店構想も見えていると言う。

 不況で人々の購買力は落ち、若年層を中心に低価格店に流れがちだ。大手はそこで、ビギナー客への味の「すりこみ」もねらう。業界の構造激変は、まだまだ続くと見るべきだろう。(金賢記者・次回は叙々苑)