受け継がれる「朝鮮の美感」/在日コリアン美術展


 5日から11日まで京都市美術館で開かれた、所属や立場を越えた広範な美術家による「アルン展―在日コリアン美術展」。

 南朝鮮からの飛び入り参加や、実行委メンバーと交流のある沖縄の作家グループ「OKINAWA・12SINKA」のゲスト出品も含め、インターネットなどによる呼びかけに応えた10代から70代までの100余人の作品、150余点が展示された。

 伝統的朝鮮画の手法を取り入れたものや油彩、立体などジャンルも多彩なうえ、遠方から駆けつけた同胞やひきもきらぬ来場者らで、会場は祝祭のような華やぎを見せていた。

 作品搬入の作業をしながら、「1993年のコリア統一美術展の時のことを思い出した」と語るのは、実行委員の1人として企画に携わった廬興錫氏(44)。

 キャリアの長い作家から南の留学生まで、多くは初めて顔を合わす者同士が共に汗を流して準備を進め、意見を出し合うなど、趣旨に賛同して参加した出品者1人1人が力を合わせてアルン展を成功させようとの熱気にあふれていたという。

 これまで、それぞれの所属団体のグループ展や、日本の公募展、海外などに発表の場を求めて来た広範な美術家らの作品が集ったアルン展。そのテーマや表現様式は多様で、現在の在日コリアンの多様な「生」と複雑さを示していたが、こうした新たな試みがまた、「民族」を共通項とするゆるやかではあるが、確実な絆とうねりを作り出しつつあることを認識させた。

 会場を訪れた、名古屋市美術館学芸員の山田諭氏は、「過去の作品から現在の作品に至るまで、朝鮮の美感が確かに受け継がれており、厚みを感じる」。

 とくに日本の作家らが、30歳なら30年の自分の人生の範ちゅうでしか発想しないのに対し、若い在日コリアンらが父母、祖父母の歴史を含めたスパンで創作している点に感銘を受けた、と語っていた。

 事実、祖国の歴史と現実に材を取った「越えて」(林栄実)や「50Years」(洪性翊)、「白い積荷」(金誠民)、「彼女の棲む世界」(成玉姫)などの作品はいずれも30、40歳代の作家によるものだ。

 だが、一方で、キャリアを積み海外や日本で評価の確立されている作家らと、学校を卒業して間もない作家らの作品が同列に並べられた会場では、作品ごとに技術や表現の深まりにおいて差がありすぎるとの専門家の指摘も聞かれた。

 開かれた場へと新たな一歩を踏み出した美術展として、厳しい課題が突きつけられてもいる。(鄭純華記者)

 

「KYOTOからの提言」/関連シンポ開催

 5日、アルン展の関連イベントとしてシンポジウム「過去から未来へ−在日コリアンの美術、KYOTOからの提言」が京都市国際交流会館で開かれ、美術評論家の針生一郎氏が「戦後美術の中の゙良奎」、朝鮮大学校教育学部主任の李繻M氏が「在日コリアン美術の軌跡」、朝日新聞東京本社学芸部編集委員の田中三蔵氏が「『自分探し』からの踏みだし方−アジアの同時代美術を取材して」、沖縄県文化振興課主査の翁長直樹氏が「沖縄戦後美術の流れ」をテーマにそれぞれ、作品をスライドで紹介しながら講演した。

 針生氏は、人間存在の力強さを描いだ氏の一連の作品について解説。戦後日本の美術を語るうえで、゙氏は欠くべからざる存在であり、その作品の力は現在も有効だと語った。

 なおアルン展には、同シンポ参考作品としで氏の作品をはじめ、個人や日本の公立美術館が所蔵する在日コリアン物故作家の作品14点が特設展示された。