千葉殺人放火事件から1年/理解しがたい捜査
総聯千葉支部の羅勲副委員長(当時42歳)が殺害され、犯行現場の千葉朝鮮会館が放火された事件は、15日で丸1年となる。真相は今もって闇の中だが、犯人を追うべき警察の理解しがたい動きも含め、在日同胞と総聯にとっての不安材料は、解消されるどころかむしろ増大している観さえある。
「なぜ総聯と取り引きするのか」「総聯の人間は北朝鮮で教育を受けて活動する日本の敵だ」
9月22日、会館に出入りする日本人業者は突然、事件の捜査を担当している県警捜査一課員から脅しとも取れる暴言を浴びせられた。
また、捜査員が年初の2月9日に朝銀職員を、9月14日には総聯職員を尾行していた事実も発覚している。
近年、チマ・チョゴリを着た朝鮮学校の生徒をはじめ、在日同胞をねらった暴力事件、いやがらせの例には枚挙にいとまがない。とくに昨年8月末以降、狂乱的とも言える「テポドン」騒動の中で事態は深刻さを増した。羅副委員長殺害事件は、その代表的なものだと言える。
しかし、再発防止のための捜査、対策が徹底された形跡はまるで見当たらない。逆に、取材していて聞こえて来るのは、公安当局の「総聯シフト」の情報ばかりだ。
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「新潟に入ってくる船をストップさせる方法がある。在日朝鮮人の再入国を拒否することだってできる」
昨年9月、都内某所で開かれた「テポドン発射」に抗議する集会で演壇に立ったある与党議員は、吠えるように語った。特攻服姿の右翼をはじめ、会場を埋めた参加者からは喝采(かっさい)が起こり、「在日朝鮮人を追い出せ」との怒号も混じる。
集会には、複数の党から20人以上の代議士や都議が出席。「北朝鮮の脅威」を強調しながら、日本の軍事力強化をうったえた。
多くのマスコミ関係者はこうした動きについて、「タカ派の中でも主流になれない、小グループの気晴らし」と無関心だ。
しかし昨年末には、新潟県知事が「万景峰92」の入港に反感を持つ右翼に襲われ、今年春には「親北朝鮮」とのレッテルを貼られた都内選出の代議士事務所に、右翼がトラックで突っ込んだ。
これらは極端な例かも知れないが、在日朝鮮人をねらった事件が多発する現実は、朝鮮を「仮想敵」として、野心を遂げんとする政治勢力の「しかけ」に、やすやすと乗る構図があることを物語ってはいないか。
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総聯関係者に対する尾行は、政治問題化の糸口をつかもうとするものだ。公安当局はすでに、「核疑惑」が騒がれた93〜94年当時、総聯弾圧のシナリオを作っていた。
そして、こうした意図にあおられるようにして起きた、同胞をねらった事件のほとんどは未解決のままだ。
在日同胞の「生活の安全」は、どのようにして守られるべきなのか。貴い同胞の命が奪われた千葉の事件を、深刻な問題提起と受け止めるべきではないだろうか。(金賢記者)
危機感保ち根を絶て
廣瀬理夫(千葉朝鮮総聯役員虐殺放火事件調査委員会事務局長)
日本政府は昨夏から、朝鮮の人工衛星打ち上げを「弾道ミサイル」だとするキャンペーンを繰り広げ、国民感情を反北朝鮮へと誘導した。そしてそれを巧みに利用して日米安保ガイドライン関連法を成立させ、有事法制、TMD導入などを日程に上らせた。
かつてない排外主義的雰囲気が醸成される中、全国各地で在日朝鮮人や総聯に対する暴力、暴言、脅迫事件が続発し、日本における人権と民主主義の根幹を揺さぶった。
千葉で起きた事件も犯行の手口、態様から考えて、約20年にわたる弁護士経験からは、これが単純な動機による刑事事件でなく、複雑な政治的背景を持った事件であるとの疑惑を抱かざるを得ない。
ことあるごとに在日朝鮮人に対する偏見があおられ、こうした現象がムード的につくり出されることには恐ろしさを感じる。
このような問題の根を断つには、一時的に人権について議論して、あとは日常生活に戻るというのではだめだ。
日常生活の中で、それぞれが敏感に感じて意見を言い、具体的に対応していかなければならない。
オウムに坂本弁護士一家が拉致され、殺害された事件でも、彼の同僚の弁護士たちが追求の手をゆるめなかったことが大きかった。
あの時も警察は、最初は動かず、闇に葬り去られる寸前までいったこともある。しかし同僚の弁護士や坂本弁護士のお母さんたち家族の頑張りが、世論を動かし、警察を動かした。
ある意味で羅さん殺人事件の真相究明は坂本弁護士事件以上に厳しい。しかし、1人ひとりの力で警察を動かして行くようにしなければいけない。