聞いてほしい!倒産の話(3)/「八起会」の野口誠一会長

見栄を捨て、嫌な事への挑戦を


 再起した人の話をします。1979年、45歳で倒産した宝石業の人です。彼はその時、まず何をしたか。数字に弱いことが分かったと言って、簿記学校に通い始めたんです。

 金の大暴落で都内の宝石店がバタバタとつぶれた年です。でも、そういう環境が原因だなんて絶対に言わない。どんな商売も数字から、数字が読めないからつぶれたんだと答えを出し、最も嫌いだったという数字に挑戦した。だから成功するんじゃないですか。

 200人の従業員を抱える婦人服卸問屋の2代目だったある人は、倒産後すぐ、便所掃除を始めた。「こういう汚い、嫌なことをしておけば、これから先、どんなに辛い仕事が来ても駄々をこねないだろうから」という。倒産した瞬間から自己改革を始めたんです。

 だめな人間は、嫌いなことをしない。素直じゃないんです。面倒くさい、苦手なことをして、初めて素直と言えるんです。私も社長の時には、好きな客の元にはせっせと通ったもんですよ。それで、嫌いな所には部下をやる。こういうことをやめてほしいんです。

 先の宝石業の人は、11億円の負債を10年で完済したどころか、マンションを3軒も建て、200坪の温泉付別荘まで買ったそうです。昔は全国に支店があり、社員も70人いたが、今は家族3人、店はたった5坪。ところが、これが最も儲かっているんです。

 私の元に相談に訪れる人の半数以上は、大きくしたがためにつぶれている。とにかく縮めることを知らない。でも、私たちは倒産したおかげで自分の器を知ったんです。知った以上、これ以上は大きくしない。前は「昔のように盛大に広げれば」という同業者の口車に乗ったものですが、今は決して乗りません。見栄を捨てたからです。社長の見栄なんて何のプラスもない。「腐っても鯛」というが、腐ってしまえば鯛もイワシもないですよ。

 人間、出世する時が一番怖い。課長になったくらいで急にえばり出し、部下に厳しく、自分に甘くなる。こういう人が挫折を招くんです。先が見えない甘さ、金に対する甘さ、人をすぐ信用してしまう甘さ、これが出て来ると油断をする。油断をするから失敗する。簡単な方程式ですよ。

 そんな経験をしないうちに、皆さんには今、気付いてほしい。人間、どこで気付くかが問題なんです。