子どもをどう育てるのか/白吉雲さん(司法書士) 民族教育を語る
在日同胞の様々な問題に鋭い発言を続け、「たたかう司法書士」と呼ばれている白吉雲さん(在日朝鮮人人権協会会員、京都司法書士会理事)。京都に在住しながら同胞の問題となれば、全国のどこにでも飛んでいく。その白さんが9日、千葉の学父母ら地元同胞の招きで「子どもたちの未来のために」と、題して語った。
ペク・キルン 1960年兵庫県生まれ。神戸朝鮮高級学校、立命館大学卒業。88年に司法書士資格を取得し、翌年から京都市五条大宮にて事務所を開設。京都市外国籍市民施策懇話会委員。
どう育ってほしいのか、何をさせたいのか
最近、よく在日同胞は今後、数十年の間に消滅するのではないか、という話を耳にする。私は、こうした時期にこそ「在日同胞倍増計画」を提唱したい。
帰化者が年間1万人を越え、その数は年々増えている。だから在日の先が見えないというのだ。
では、未来を語るためにはどうすればいいのかを考えることだ。
私たちが暮らしているのは、高度に発展した日本社会だ。そこで生きていくためには、何が必要か。健康な精神と生きていくための手段だ。この両方を身に付けるために民族教育が必要だと思う。民族教育によって、民族的自覚を持った有能な人材、つまり戦略、戦術を立てられる人間を育てる。
これからは、熱意だけではだめだ。熱意はいつかはさめる。行動と能力が伴わなければならない。そして豊かな人材を同胞社会、日本社会に輩出していくことだ。
父母の間では子どもたちを、日本学校に入れるか、朝鮮学校に入れるかで論議が止まっているが、子どもたちにどう育ってほしいのか、何をさせたいのか、そうした理念をはっきりと持った論議をこれからはしてほしい。
朝鮮語の水準に関心を示すべき
日本社会には、確かに差別がまだ残っている。でもそれを怖がる必要はない。豊かな民族心、健康な体があれば、はねのけようとする力が生まれる。その差別が大きな力であれば、みな力を合わせてたたかえばいい。
民族学校に通うことの利点を、もう少し見直してほしい。まず、朝鮮語と日本語の両方が使える。今は国際化の時代、インターネットの時代、両方知っているというのは大変な利点だ。
そこで父母、学校の先生に考えてほしい。英語の授業には、米国、英国人を講師に招くのに、朝鮮語にはない。朝鮮語の水準にももう少し関心を示すべきではないか。例えば、本国から講師を呼ぶとか、考えてもいいと思う。
司法の世界で同胞のために何かをしようとした時、原文の朝鮮語の資料が読めることは利点だ。
民族教育を受けた者の特権はまだまだあるし、これからはもっと増えていくと思う。
父母の不安を取り除き、民族教育をどのように守っていくのか
今、民族教育に一番不安を抱いているのは、サラリーマン世帯の父母だと思う。家が商売をしていれば、子どもはそれを継ぐこともできる。ところがサラリーマン家庭は、子どもを朝鮮学校に入れたら就職に役立たない、夢の実現には国籍条項がハンディになるのではないか、と考える。
そんな不安を前に、何ができるのかを考えた時、とにかく情報を集めることが大事だ。
少し前、競艇の選手になりたいが、朝鮮籍では無理なのか、と相談を受けた。募集要項を調べてみたら、国籍は問いませんとあった。弁護士、税理士、スチュワーデスなど国籍の壁はすでに取り払われている。
朝鮮学校の問題は日本人の問題でもある。
日弁連が、朝鮮学校など外国人学校についての人権救済申立を受けて九七年にだした調査報告書には、「『自己の民族の文化を維持継承する権利』は、自国内に限らず、この地上の何処にいてもすべての人々に保障されなければならない普遍的な権利である…」と指摘している。朝鮮学校への差別は、明らかな人権侵害だ。
日本人には、人権侵害だという認識を持たせる訴えをしていくべきだと思う。
講演を聴いて
白吉雲さんの講演は、民族教育に対する既存の観点を、新しい視点で見直してみよう、という試みに感じられた。
弁護士を目指しているという、明治学院大学1年の鄭栄桓君(18)は、「今日の話で、新しいドアが開けられたような気がした。弁護士になることが目的ではなく、どういう弁護士になるのか、そういう考え方に変わった」という。
息子(高校3年)と娘(中学3年)を朝鮮学校に通わせている高京和さん(44、市川市在住)は、「何かしなくちゃいけない、という気持ちになった。シュプレヒコールを叫び、はったりだけではだめな時代であることを思い知らされた」と語る。
データによると、朝鮮学校に通っているのは対象全体の10%にも満たない。
だが、白さんは日本学校に通っている90%が、朝鮮学校を否定しているのかというと、そうではないという。ならば、この数字とどう向きあっていくのか。
講演の随所には、そうした課題をクリアしていくヒントがちりばめられていたように思えた。 (金美嶺記者)