そこが知りたいQ&A/人種差別撤廃条約って何?
Q 「人種差別撤廃条約」って何ですか。
A 正式名称は「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」。人種差別撤廃の重要性、差別撤廃への最低基準を示した国際人権条約です。国連で1965年に採択され、現在の締約国数は155ヵ国。日本は95年12月に加入しました。南北朝鮮も締約国です。
Q どんな特徴があるのですか。
A 人種差別を「人種、皮膚の色、門地(家柄)または民族もしくは種族的出身にもとづくあらゆる区別、除外、制約または優先」と定義しています。日本では、在日同胞や他の外国人はもちろん、部落差別、アイヌ民族や沖縄出身者への差別なども該当します。
国はもちろん自治体などの公的機関、団体や個人による差別、公衆の利用する場での差別、機会だけでなく結果としての差別まで対象としているのも特徴です。
Q そうした差別を撤廃するため、締約国に課された義務はありますか。
A 条約は、差別撤廃のための基本方策として締約国に対し、(1)悪質な差別行為や差別団体を法律で禁止(2)被害者に対する裁判所と国家機関による有効な救済(3)劣悪な状況に置かれている人々への特別措置(4)差別観念を取り除くための教育・マスメディア・文化活動の奨励(5)お互いの独自性を尊重し共に連帯する取り組みの奨励――などの措置を取るよう求めています。
Q 日本は義務を果たしているのですか。
A 果たしているとは言えません。例えば外国人だという理由で入店を拒否した店主を相手に損害賠償請求訴訟を起こしたアナ・ボルツさんの場合、国際条約に国内法としての効力があると判断されて勝訴しましたが、こうした判断がどんなケースでもなされるとは限りません。条約に従い、まずは国内における法整備とシステム作りが図られるべきです。
Q 他の国ではどうですか。
A イギリスには人種差別を禁止し、違反した場合には刑罰を課す人種関係法があり、同法に基づき、強い権限を持って差別是正と犠牲者の救済に努める人種平等委員会が設置されています。同様の法、制度はスウェーデン、フランスなど多くの国にあります。
例えば日本では、マスコミで朝鮮が非難にさらされるたび、多数の朝鮮学校児童・生徒が通り魔的な暴行被害に遭っています。これは明らかに民族・人種的差別事件であり、犯人は、上記の国では刑罰の対象となります。しかし、日本には犯人をきちんと処罰する法や事件防止、被害者救済に有効な制度は存在しません。
Q 条約を守っているかどうかはチェックされるのですか。
A 国連に設置された人種差別撤廃委員会が審査します。締約国は締結後1年以内、その後は2年に1回、条約の実施状況に関する報告書を委員会に提出します。委員会は報告書をもとに審査した結果を総括所見として採択し、懸念される点には改善を勧告します。
95年12月に加入した日本の第1回目の報告書提出期限は97年1月でしたが大幅に遅れ、外務省によると22日現在でやっと報告書が完成したところ。11月初めに委員会に提出し、来夏頃に審査が行われる見込みだといいます。
日本政府は昨年、「子どもの権利条約」と「自由権規約」の実施に関する同様の審査で、朝鮮学校への差別是正などを厳しく勧告されました。人種差別撤廃条約にしても、対象となる制度的、社会的差別が数多く存在するのに、その是正に努めていないどころか、朝鮮学校生の国立大学受験差別に見られるように、政府や公的機関が率先して差別を行っています。来夏、日本政府にどんな審判が下されるのか注目されます。