「外国人お断り」にノー!/人種差別撤廃条約でブラジル人記者勝訴
目に見える人種差別、今も/ 侵略清算しない日本政府に責任
昨年6月、アクセサリーを探しに入った浜松市内の宝石店で「Where are you from?(どちらの方ですか)」と聞かれ、「ブラジルです」と答えた同市在住のテレビ記者、アナ・ボルツさん(35)は、店から追い出されそうになった。そればかりか店主は、抗議するボルツさんを犯罪人扱いして警察を呼ぶなど屈辱的な仕打ちをした。その非を認めるどころか謝ろうともしない店側のこうした行為は「人種差別撤廃条約」違反だとして、ボルツさんは慰謝料などを求める損害賠償請求訴訟を起こした。静岡地裁浜松支部は12日、ボルツさんの主張をほぼ全面的に認める判決を下した。
コンビニにも張り紙
事件が起きた静岡県浜松市の外国人登録者数は約1万5000人。うち1万人以上がブラジル人だ。日本全国的には最多の在日同胞も、この市には1600人余りしかいない。
1990年、日本政府は労働力不足解消のため、日系人があらゆる職種に合法的に就労できるよう法律を改めた。その結果、オートバイや軽自動車、楽器などの製造業の盛んな浜松に職を求め、日系ブラジル人が多く住むことになった。ボルツさんも、日系ブラジル人の夫とともに6年前に日本に来た。
しかし、地域社会は彼らを快く受け入れたわけではなかった。ボルツさんと同様の事件は、日常的に起きているという。市内には、「外国人お断り」という張り紙を堂々と掲げたファミリーレストランやコンビニエンスストアもあった。件の宝石店にも、同様の張り紙がしてあったという。
「日本人は歴史を見ようとしない」。ボルツさんは、日本政府がアジア侵略の過去をきちんと清算せず、放置しておいたことに目を向ける。侵略の結果、日本に住むことになった朝鮮人を保護するどころか排除してきた日本政府が、80年代以降に増えた他の外国人の人権に目を向けられないのは当然だ。政府が差別政策を取っているのに、人々の心の中の差別意識が消えるはずはない。
そういう意味でこの事件は、ボルツさん個人やいわゆる「ニューカマー外国人」の枠に止まらず、「オールドカマー」である在日同胞にとっても重要な意味を持つ。
朝鮮学校取材したい
今回の判決の特徴は、日本には人種差別を禁じる法律がないため、日本が加入している国際条約の人種差別撤廃条約に国内法としての効力を認め、同条約を個人間に適用し被告の行為を違法とした点だ。日本初のケースだという。
同条約に詳しい部落解放・人権研究所の友永健三所長は、「国際条約の適用に消極的だった日本の司法が今回、それを直接援用した意義は大きい。しかし、これが判例になってもすべての被害者を救済できるわけではない。やはり国内法の制定が必要。それが条約締結国の義務だ」と指摘する。
ボルツさんも、まずは法律が必要だと強調する。今月初めに設けられた市長との懇談の席では、市独自の条例制定を訴えた。
中南米諸国出身者を主な対象にしたテレビの記者であるボルツさんは今後、朝鮮学校の問題なども扱ってみたいという。またブラジル人も、様々な権利問題の解決のためコリアンのように団結する必要があると語る。「一緒に頑張りましょう。裁判は終わりではなくスタートです」。(韓東賢記者)