ニュースの眼/在日朝鮮人軍属らの相次ぐ戦後補償裁判
旧日本軍軍属として徴用された在日朝鮮人の姜富中さん(79)が、日本国籍がないことを理由に戦傷病者戦没者遺族等援護法(「援護法」)の障害年金を却下した国の処分取り消しなどを求めた訴訟の控訴審判決で大阪高裁は10月15日、「憲法14条と国際人権規約に違反する疑いがある」との判断を示した。強制連行、慰安婦…。現在、係争中の戦後補償をめぐる裁判は40件を越える。90年代に入り、旧植民地出身者の提訴が増えるとともに、問題に消極的だった裁判所も「違憲の疑い」「立法不作為の状況」など政府や国会の無策を指弾する判決を出し始めた。
10代で南朝鮮から渡日した姜さんは、22歳の時に日本海軍に徴用された。南方戦線で弾薬を運んでいたときに、米軍の銃撃を受け、右手親指を残し、他の指を切断した。右目はほぼ失明の状態だ。
日本人の元軍属なら姜さんと同程度の障害があれば、現在、年間180万円の年金が支給され、支給開始からの総計は3500万円を超える。植民地時代、日本により駆り出された朝鮮人軍人、軍属は厚生省発表で24万2341人。(2万2182人は死亡)
日本政府は敗戦後、元軍人・軍属への恩給を復活させるなど、彼らを手厚く保護してきた。戦争犠牲者などに年金、恩給を支給する関係法は10を超す。
しかし、被爆者関連法以外は対象を日本国籍や日本戸籍を持つ者に限っている。戦前は日本人になることを強要し、戦争に負けると一変して日本人ではないから補償できないと差別する日本政府の不当な態度がここにも貫かれている。
姜さんらが問題にしているのは、援護法の国籍条項による差別だ。現在全国で4件5被告が係争中だ。
同法には戸籍条項が設けられているため、サンフランシスコ講和条約発効と同時に日本国籍を喪失した朝鮮人軍人・軍属は援護の対象から外された。
日本政府は「日韓協定で解決済み。援護法の国籍要件を見直すことは困難」との立場を崩していない。一方、南朝鮮当局は、在日朝鮮人軍属を「協定の範囲外」として補償しなかった結果、彼らは両国間の谷間に放置された。
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日本政府に補償を求めた今までの訴訟で、裁判所はすべて請求棄却の判決を示してきた。しかし、90年代に入って旧植民地出身者による提訴が増えたのに伴い、現状の不備を指摘・批判したり、改善を促す判決が目立つようになった。
特に今回の大阪高裁の判決は、高裁レベルで初めて「違憲の疑い」を指摘した点で踏み込んだものだ。また「今後も是正措置を行わず、是正に必要な期間を経過した場合は、国家賠償法上の違法行為になる」と国に早急な対策を促している。
日本政府が今年に入って在日朝鮮人軍人・軍属への一時金支給の検討を始めたのも、原告らの運動がもたらしたものだろう。
提訴当時から裁判に関わってきた一橋大学の田中宏教授は「援護法は軍人・軍属に対して国家補償を行う実定法で、国籍のみで在日朝鮮人を排除する問題性を裁判所が指摘し、この点で他の戦後補償問題と差がある。強制連行、慰安婦など戦後補償問題の包括的解決の方途を考えるべき」と語る。
「日本人として戦争におもむいた」という元軍属らの主張は、ともすれば、植民地支配が合法だったともとれる問題提起だが、そもそも日本の植民地支配が非合法であるという視点を欠くと、この問題は決して解決できないだろう。
戦後補償裁判は、日本がアジアに対する植民地支配の過去にどう向き合うかーという根本的な問いを投げかけているのだ。(張慧純記者)