在日同胞社会を読み解く


強制連行などの事実を
多様化する生活実態は
民族の回路を歩む

 読書の季節だ。1冊、1作者とじっくりつきあうことは読書の楽しみの一つである。この機会に、同胞文化人、日本の研究家などの著書を通して、同胞社会の現住所を読み解くのもあながち無意味ではなかろう。

 同胞社会を見渡してみると、いわゆる在日世代論や在日論、共生論といわれるものが色々な角度から表明されている。

 しかし、それらは「実際には『旧世代の民族観』に対する批判というより、在日朝鮮人と『民族』のつながり一般を否定する議論になっている点」(徐京植著「分断を生きる―在日を越えて」影書房、97年)に集約される。

 民族的視点に依拠して同胞社会の未来像を論じるためには、まず在日同胞の歴史をきちっと知ることから始めなければならないのではないか。

 在日同胞は、日本の朝鮮植民地政策の結果、生じた。

 戦前、日本の在日同胞への迫害、強制連行の事実と解放後から80年代中盤までの在日同胞の歴史をまとめ、今でもその分野における必読文献となっているのが故朴慶植著の「朝鮮人強制連行の記録」(65年、未来社)、「解放後在日朝鮮人運動史」(三一書房、89年)である。

 近年、彼の枠組みに沿い、同時代的な視点に立って、多くの研究者たちが個別的な部分を深く掘り下げている。

 その中で、注目に値するのが「戦後日本政治と在日朝鮮人問題」(勁草書房、97年)である。

 南朝鮮の学者・金太基氏が、一橋大学の博士論文に加筆したもので、1945年から52年までのSCAP(連合国軍最高司令部)の対在日朝鮮人政策を分析している。868ページの大著だが、解放後の民族教育弾圧に米国がどのように関与していたかを詳細に論じている。

 また、それと関連して「在日外国人・新版」(田中宏著・岩波書店、95年)、「在日朝鮮人の『世界』と『帝国』国家」(西成田豊著・東京大学出版会、97年)も参考になる。

 同胞社会は半世紀以上という歳月を経て、大きく変ぼうしている。世代構成において、かつての日本植民地支配によって渡日を余儀なくされた1世は、同胞社会において10%を下回り、2世以後の世代、3、4世が主人公として登場している。

 そういった中で近年、同胞が抱えている様々な法律・生活問題と、同胞青年たちの意識状況を解説した書物が多く刊行されている。

 「在日朝鮮人―歴史・現状・展望」(朴鐘鳴編・明石書店、95年)は、同胞社会の歴史形成をはじめ、法的地位、教育、経済、参政権、社会生活・保障などをわかりやすく解説している。

 「同胞の生活と権利Q&A」(在日本朝鮮人人権協会編、99年)は、国籍、相続、社会保障などを専門家たちが丁寧に解説した実務的手引書である。

 同胞の生活実態とその意識調査実績は未だ十分とはいえないが、「在日韓国人青年の生活と意識」(福岡安則、金明秀共著・東京大学出版会、97年)は、生活実態の一部を反映したものとして、議論のたたき台になる。

 神奈川大学教授・尹健次氏は「在日を生きるとは」(岩波書店、92年)の中で、「在日はそれ自体政治的存在であり、その政治を欠落させた議論は不毛であるばかりか、危険である」としたうえで、「在日が、『不遇の意識』の原点である自らの出自を凝視し、普遍性に至る『民族』の回路をあゆまねばならない」と指摘している。(金英哲記者)