診察室から/厚底ブーツ
朴京林(パク・キョンリム 京都大学婦人科学産科学教室医員・研究生)
初冬の街を歩いているとヒールの高さが10センチは優に超えそうなブーツが猛威をふるっている。診察室でも例外なくこの“厚底ブーツ”を引きずってやってくるティーンエイジャーが目立つ。
さて、この年代の女性たちが産婦人科を訪れる時は大抵が妊娠にまつわる相談である。色とりどりにきれいに化粧されていても、望まない妊娠を知った時の彼女たちの顔には、一瞬、暗い陰がよぎる。
さらに、この数年ではクラミジアに起因する骨盤内感染症の頻度も急増している。クラミジア感染症は、性交渉を介して伝染する病気で、病気の詳細については省略するが、感染初期には男女ともにあまり症状がなく、したがって治療を受けないまま次から次へと蔓延するところが厄介である。
女性の場合、クラミジア感染症を放置していると卵管や骨盤内の癒着が起こり、将来的に不妊症につながる危険が大きい。マスコミ等では 援助交際 うんぬんと一部ティーンエイジャーたちの行動を商品のようにもてあそぶ風潮が見られるが、そのことがさらに彼女たちをあおり、エスカレートさせている部分もあるように考えられる。 厚底ブーツ をはいている彼女たちを見るとき、現代の纒足(てんそく)よろしく、彼女たちもまた現代という時代に縛られているがごとく感じてしまう。
さて、こういう話題を決して 他山の石 としてほしくないのである。情報化の波はもの凄い勢いで個人のレベルまで浸透する。
厚底ブーツ がいけないのではなくて、それをはいているわが子も、他人の子もよくよく気をつけてやってほしい。そして時には、面と向かっての対決も辞さないでほしいのである。
9月の初めから望まない妊娠をして相談に来た18歳の女子学生が「私の親は何をやっても叱らないんです」と困った顔をしていた。そして、その母親が診察室にやってきた時の第一声が「うちの子がまさかこんなことになるなんて」であった。