近代朝鮮の開拓者/企業家（８）尹相殷（ユン・サンウン）

　尹相殷（１８８７〜１９５０年頃）

　亀浦の地主の家に生まれ、釜山の先覚者朴�h淙の影響で新学問を学び、教育活動から地方の民族系銀行の創立者となる。また朝鮮鉄道株式会社をはじめ電気、運輸、縫製などの会社にも参与した。

地方金融機関設立の先頭に/銀行に改編し「会社令」乗り切る

　尹相殷の本貫は坡平尹氏。５人兄弟の３男として、１８８７年に洛東江の河口の下端浦から１０数キロ川上の亀浦で生まれた。下端浦と亀浦は洛東江流域の物資の集散地でにぎわっていたが、彼の一家は、伝来的な教育を受けたこの地方の郷班で、かつ大地主であり、兄弟たちは東莱や蔚山の郡守を務める家柄であった。

　ところが尹は結婚を機に、大きな思想的革新に出会うこととなる。１９０１年、彼が１５歳の時に結婚した女性は、前号で紹介した朴�h淙の娘だ。チャンイン（丈人＝妻の父）となった朴�h淙と、その子で日本鉱山学校で勉強した朴晶奎の影響を受け、尹相殷は近代的学問を学ぶ決心をした。

　そしてチャンインの創設した開成学校に入学し、数学、地理、歴史、日本語などを学んだ。

　彼は開成学校を卒業したのち、一時、東莱地方の官吏になった。しかし日本人と対立し、官吏をやめて郷里に帰り、村の子供を教え始めた。これが評判になり、ついに私立亀明学校となる。こうして彼は、その地方の名士となっていくのである。

　亀浦は、舟便で洛東江沿岸の農産物を集めて、釜山や金海の農村に売る集散地であった。その関係で、早くから金融機関の設立が要求されていた。

　したがって、この地方の開明紳士であり、大地主の息子である尹相殷は、同じ境遇の張禹錫と共に１９０８年、最初の地方金融機関である亀浦貯蓄株式会社の創設の先頭に立ち、張は取締役社長、尹は取締役に就任するのである（資本金２万５０００円、５００株。尹の家族の株が全体の１６％を占めた）。

　この会社は銀行と同じく預金と、オウムと呼ばれる手形の割引などを行った。

　実はこの地方には、以前から「貯蓄契」という伝統的な「契」組織があって、これを母体にして、近代的教育を受けた人々が株式会社に発展させていった。尹相殷はこの事業の推進者となっていく。

　亀浦貯蓄はその後、ピンチを迎える。それは、朝鮮総督府が朝鮮人の会社組織を締め出すために発布した「朝鮮会社令」であった。この難しい関門を乗り切るためには、尹相殷の近代的な能力が必要であった。

　１９１１年１２月、亀浦貯蓄株式会社は臨時株主総会を開いて、亀浦銀行と改編することを決定し、１９１２年６月、最初の民族系地方銀行となった。

　その後、この銀行は独立運動に資金を出している疑いで幾度も捜査を受け、尹相殷も日本警察の監視を受ける身となるのである。（金哲央、朝鮮大学校講師）