女のCINEMA/スパイシー・ラブ・スープ

北京の実相くっきり


 「唇と歯」の関係と表現された朝中関係。現在も友邦として強い絆で結ばれている。その現代中国の実相を正しく知ることは、様々な意味で、重要である。この映画は、そのつきない興味を満たしてくれるだろう。

 結婚を間近に控えたカップルを軸に、初恋(第1話)、再婚(第2話)、倦怠期の結婚生活(第3話)、離婚(第4話)、熱愛(第5話)と、「愛にまつわるいくつかの大切な局面」(張揚監督)を連鎖して同時進行させ、カップルの結婚式をエピローグにまとめている。

 スクリーンから溢れるブランド商品、明るいゲームセンター、個室を埋める音響・映像機器、食卓いっぱいの料理、北京の中流層の豊かさは想像以上。改革・開放経済の推進によって、中国はいま、未曾有の変化の中にある。この急速な変貌は、既存の価値観を喪失させ、人生観や恋愛感覚にも影響を及ぼしている。

 戦争も、文革も、天安門事件の片鱗すらここにはない。あるのは普遍的な生の営み、日常の生活。観終わった後に、どれか一つは、身に覚えがあり、当てはまるものがあろう。リアリティの追求にありがちな非情さは見られず、甘くて、せつなくて、ほろ苦い愛の感触とともに北京の生活者の疎外感も浮かびあがる。

 人は、人として人を愛し、触れ合うことでのみ「孤」から「個」へと自己確認が可能たりえるだろう。

 原題は「愛情麻辣(マーラタン)」。

 四川の火鍋料理(しゃぶしゃぶ)。鍋の中央をS字型に仕切り、唐辛子とさっぱりタイプ2色のスープに肉や野菜をつけ食す。

 中国での上映以来、「タイタニック」と二分したと言われるほどの爆発的ヒットとともに、このマーラータンも中国全土にブームを起こしたという。中国新世代の張揚監督第1回作品。1時間59分。 (鈴)