そこが知りたいQ:&A:/朝・日会談の展望は


早ければ年内に予備会談

争点

朝鮮側の主張 項目 日本側の主張
当初より不法で無効 旧条約
(基本問題)
合法でかつては有効
交戦国間の賠償と財産請求権の2形態を適用、日本には財産請求権なし 補償
(経済的諸問題)
財産請求権の範囲内で処理、その場合も証拠文書の提示が必要
ミサイルの開発、配備は自主権に関する問題、昨年8月に発射したのは人工衛星 ミサイル問題
(国際問題)
ミサイル開発実験の中止、ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)への加盟
人道的見地からの食糧援助 相互関心事 行方不明日本人問題、日本人妻の故郷訪問

 Q: 朝鮮労働党と村山富市元首相を団長とする日本政党代表団が、朝・日国交正常化政府間会談の早期再開で合意した。年内にも予備会談が開かれるとの見解もあるが、今後の展望は。

 A: いまのところ、具体的な動きは表面化していない。予備会談が開かれるとすれば、北京かクアラルンプールが有力だが中国駐在の朱昌駿朝鮮大使は、7日の記者会見で会談の時間や場所について「本国から具体的な指示を受けていない。いずれ両政府が決めるだろう」と語っている。

 一方、小渕恵三首相は7日、河野洋平外相と会談し、「(村山訪朝団の)報告を聞いたが、(会談に向けて)動いた方がいい」と述べ、あらためて「今月中に北朝鮮側との予備交渉に入るよう指示」(東京新聞七日付夕刊)した。

 以上を総合すると、予備会談は日本側の行動待ちで、ようやくその日本側が動き始めたところだろう。

 Q: 朝・日予備会談の年内開催の可能性は。

 A: 高い。予備会談では本会談の場所と日時、それから議題が協議されると思われるが、それほど難しい問題ではない。

 ただ懸念されるのは、日本側が時間稼ぎする可能性があるということだ。

 「『日朝交渉は米韓との共同作業』(外務省幹部)として米韓との協調を優先させるか、それとも厳しい世論を反映するか、日本の対応次第では、交渉再開の時期にも影響が出る可能性もある」(朝日新聞7日付)というわけだ。

 Q: 米国と南朝鮮の反応は。

 A: 米国務省のルービン報道官は、2日の記者会見で、朝・日国交正常化交渉再開を歓迎し、「ペリー調整官が進めた日米韓の連携路線と(朝・日会談再開が)矛盾しないとの認識を示した」(毎日新聞4日付夕刊)

 また南朝鮮当局も朝・日会談再開について一応、歓迎の意を表している。

 Q: となると「米韓との協調」は、基本的に問題なしと見て良いのか。

 A: そうは言えない。

 ペリーは9月に発表した対朝鮮政策に関する報告書(ペリープロセス)で、中期目標として朝鮮を「ミサイル関連技術輸出規制」(MTCR)に加盟させてミサイル開発を完全に中断させるとしている。

 ルービン報道官が示したペリー・プロセスと朝・日交渉が矛盾しないとの認識は、日本側が会談で朝鮮のMTCR加盟を前提条件として持ち出す可能性を示唆している。91年の会談で日本側が核問題を前提条件にしたように。

 また金大中「大統領」は3日、朝・日会談再開と関連して「(北朝鮮と国交交渉を行う国に対しては)韓国との関係をおろそかにしない点を明確にするよう要請している」と述べた。

 つまり米国、南朝鮮ともに表面上は朝・日国交正常化を歓迎しているが、実際には自分たちの取り分を日本に要求しているのだ。

 Q: すると朝・日会談が始まっても難航するということか。

 A: 一概にそうとばかりは言えない。

 日本が朝・日国交正常化を進めるには3つの障害があった。まず第一に、米国の圧力。

 米国は、世界戦略の見地から米国抜きの朝・日国交正常化を妨害した。日本がアジアでの地位を向上させ、米国の競争相手になるのを恐れたからだ。

 ところが、今回の朝・日交渉再開では、米国が日本に圧力をかけている。

 米政府が運営する「ボイス・オブ・アメリカ」(米国の声)放送は11月3日、日本のチャーター便の運航凍結解除について「日本政府消息筋は、15日からベルリンで開かれる朝米会談に先だって対北制裁措置を解除しろという米政府の圧力があったことを是認した」と報じた。これは柳井俊二駐米日本大使も認めている。

 米国が日本政府に朝・日交渉再開を促した手前、今度はおおっぴらに反対できなくなったということだ。

 第2に、日本人行方不明者の問題。この問題が朝・日会談推進に反対する道具に使われているという側面を否定できない。

 朝鮮労働党と日本政党代表団の共同発表文では、この問題を「それぞれが政府の協力の下で赤十字に対してこのためお互い協力していくよう勧告すること」になった。政府会談では行方不明日本人の問題を主議題にしないことを約束したと受け止めることができる。

 会談の障害とは言えないが第3に、「乙巳五条約」(1905年締結)や「韓日併合条約」(1910年締結)など旧条約に対する解釈がある。

 日本は朝鮮に対する過去の犯罪に対して素直に認めたことがないだけに、この問題で日本は、あくまでも正当性を主張するだろうが、すでに、これまでの朝・日会談で、朝鮮が日本の論拠をことごとく論破している。要は日本がそれを認めるかどうかだ。

 以上、日本側に考えられる3つの障害の内、2つまでが基本的にクリアされようとしているので、朝・日会談は今後、日本がいかに決断し、自主性を発揮するかにかかっていると言えるだろう。