春夏秋冬
1987年11月の大韓航空機失踪事件の真相を今なお、追及している野田峯雄さんの著書「破壊工作」が文庫本化された(インタビュー)。記者活動をするうえで、なに不自由のない大手週刊誌をあっさりと捨てて、野に下った気骨あるジャーナリストである
▼機体はおろか乗客の行方すら杳(よう)としてつかめない不可解、不思議な事件だが、にもかかわらず「北朝鮮の犯行(爆破)」と断定され、朝鮮は国際社会から制裁を受け、孤立を余儀なくされることになった。きっかけは「生き残った工作員、金賢姫」の「証言」である
▼野田さんがこの事件にのめり込んでいくのは、爆破されたはずの機体のかけらすら発見されず、乗客の死体も発見されていないのに、「金賢姫」の証言だけでなぜ「北朝鮮の犯行」だと断定したのか、という素朴な疑問だった。それも相対立する一方の「韓国」の断定なのだから
▼「金賢姫」が「韓国の工作員」だったとしたら、「国家安全企画部」という、米国のCIA、ソ連のKGB、そしてイスラエルのモサドと肩を並べる謀略諜報機関のシナリオだとしたら…。野田さんの足は「金賢姫」、そしてパートナーであった「蜂谷眞一」を追う旅へと向いた
▼野田さんはいう。「加工された情報をうのみにしてはならない」、「現場に行き、聞き、記憶しそれらを踏まえて創造すること」が真相に近づけることだと
▼今、情報は瞬時にして世界を駆け巡り、さらに洪水のようにあふれている。「悪貨は良貨を駆逐する」というが、だから物を見分ける力を備えることが重要だと改めて思う。 (彦)