99年朝鮮半島情勢/朝米関係 記者座談会(1)


50年ぶりの制裁緩和/米兵遺骨を直接返還、地下核疑惑で「見物料」

 今年1999年は、朝鮮半島情勢にとって大きな転換の年だったと言える。米国が、50年来実施してきた対朝鮮経済制裁の一部を解除し、8年間、中断されていた朝・日国交正常化会談も再開されることになった。南北関係では、当局者会談は不調に終わったものの、民間交流はかつてないほど活発に行われた。21世紀に朝鮮半島情勢が平和・統一に向けて劇的な変化を遂げる下地が、整っているのだ。今年1年間を担当記者が振り返った。

敵対終止への第一歩

  朝米関係で今年、最も大きな進展は、クリントン米大統領が9月に対朝鮮経済制裁の一部緩和を発表したことだと思うが。

  同感だ。米国の対朝鮮経済制裁は、大きく分けて「敵国通商法」と「テロ支援国規定」の2つに準拠している。クリントン大統領が発表したのは、このうち「敵国通商法」による経済制裁の解除だ。これは米国が、もはや朝鮮を敵国と見なさないと間接的に表明したことになる。

 同時に朝鮮が米国に対して求めている朝米平和条約締結へ1歩前進したことを意味する。

 A 94年10月に署名した朝米基本合意文の約束――軽水炉提供と、政治・経済関係の正常化――を、5年たってやっと履行しはじめたということか。

  クリントン大統領の制裁緩和発表とほぼ同時にウィリアム・ペリー朝鮮政策調整官が、「ペリープロセス」なる報告書を公表した。この報告書で注目されるのは、朝米基本合意文の意義を強調し、その履行のために抜本的な政策改革が必要だとしている点だ。

 朝米基本合意文に署名した当時、米国は金日成主席の逝去、数年来続いた自然災害などを根拠に朝鮮が遠からず崩壊すると考えていた。だから火急な核拡散をまずくい止めようと朝鮮に軽水炉提供、関係正常化という破格の約束を行った。朝鮮が崩壊すれば、約束を果たさなくても済むと思ったのだろう。

 しかし朝鮮が崩壊する兆しは一向にないし、それどころか昨年8月には世界で9番目の人工衛星打ち上げ国になった。米国の目論見(もくろみ)が完全にはずれ、クリントン政権は、これまでの崩壊を前提にした対朝鮮政策を全面的に見直さなければならなくなり、そこでペリーの登場となったのだ。

金倉里方式の確定

 A 金倉里の「地下核疑惑」が解消されたことも、大きな意義があるが。

  米国防総省の情報局長が、スパイ衛星の写真をマスコミにリークしたのが騒動の発端で、五月の米調査団の現地調査によって疑惑は完全に晴れた。

 注目されるのは、形はどうであれ、米国が「見物料」を支払ったことだ。これは1つの前例として今後、朝米間で同様の問題が生じた場合、金倉里と同じ方式で処理するという道を開いたことになり、当然、ミサイル問題にも適用されるだろう。

 C 朝鮮戦争時の行方不明米兵の遺骨返還事業が、朝米間で直接、行われた意義も大きい。

 これまで米国は、あくまでも国連軍の肩書きで、板門店で遺骨を受け取っていた。それが10月25日、はじめて米軍として平壌で遺骨を受け取った。

 朝米平和協定締結を拒否する理由の1つとして米国は、停戦協定の実質的当事者でないことを挙げているが、遺骨を直接引き取ったことは、朝鮮戦争の直接当事者であることを是認したことになる。

使命終えた4者会談

  南北と米中が参加する四者会談はどうなった。

  今年1月と4月、8月の3回、4者会談が開かれたが、一言で、4者会談はその使命を終えたと言える。

 そもそも4者会談は、朝鮮にまったく相手にされなかった金泳三が、米国をあてに北を当局間対話に引っぱり出そうとして提案したという経緯がある。その後、登場した金大中「政権」も、金泳三の政策を踏襲したが、北に一蹴されて所期の目的を達成することができなかった。

 また米国も四者会談には消極的だ。朝鮮半島における影響力の増大という戦略から見ても、米国にとって中国の介入は、影響力の低下につながる。「お山の大将」は米国1人で十分だと思っているから。

来年には高位級会談

 A 最近、朝鮮が厳しい対米論調を展開していることは、どう見るか。

 B クリントン政権に対するけん制だと思う。任期があと1年しかないのに、関係改善に向けて進むのかどうか、態度を明白にしろと言うことだろう。

 注目されるのは、平壌10日発の朝鮮中央通信が、共和党を中心とする保守強硬派を非難している一方で、ベルリン朝米会談(9、11月)で「朝米高位級会談の早期開催で合意した」、「ミサイル問題のような重大事をあと1年しか任期が残っていない現政府と討議、決定するというのは、われわれにとって1つの賭けである」と明らかにした点だ。

 早ければ来年早々にも開かれると言われている朝米高位級会談の内容が推察できる。

  レイムダック(死に体)化したクリントン大統領がどれほど指導力を発揮できるかが、今後の朝米関係進展の鍵だが、かといって共和党候補が次期大統領になっても、基本的な朝鮮政策は変わらないと思う。多少の時間のズレはあっても、朝米は関係正常化に向けて着実に進むだろう。