私の会った人/岩橋崇至さん


 『岩橋崇至 山の世界』写真展〜槍・穂高、ロッキー、白頭山〜が、今夏、東京の三越美術館で開かれた。同展は、日本を代表する山岳写真家である岩橋さんのアウトドア生活30数年の集大成が凝縮されたものとなった。とりわけ、ユーラシア大陸最後の秘境といわれる朝鮮の名峰、白頭山の雄大な山容は、縦2メートル、横5メートルという大型パネルで展示され、見る者を圧倒した。

 「韓国の留学生たちが熱心に見ていました。私も学生時代からの憧れの山。彼らにとっても最高の山でしょうからね」

 白頭山での滞在日数はこれまですでに270日を超えた。山岳写真の妙味は「空、光、影、色、そのすべてが、完全な調和を見せる一瞬」にあると言う。その一瞬のために、時に、人を寄せつけない大自然の猛威に身を委ねる。

 「12月に登った時、気温はマイナス35度、風速30メートルでした。突風に体がよろめき、地に叩き付けられる。強風が運ぶ小石や氷の塊が顔に当たり、露出している顔はあっという間に凍傷の洗礼を受けました」

 その厳しさに耐えて40日。雲が切れて、風がピタリと止んだ一瞬が訪れる。

 「波が止み、まるで天池の湖面が鏡のように見えて息をのむような景色でした」

 想像を絶する困難に耐えた人だけが味わう至福の時でもあった。

 「厳しく雄大な世界を体感した者として、国境や民族を越えて、世界中の人々に白頭山の素晴らしさを伝えたい」と語る。 (粉)