'99同胞社会をふり返って-記者座談会-


 総聯にとって「転換の年」だった1999年。長引く日本の経済不況の影響は、同胞社会にも重い影を落とし続けているが、朝鮮学校生徒たちの活躍など、明るいニュースもあった。基本的に今年は、2000年の飛躍に向けて力を蓄える時期ではなかっただろうか。民族教育問題をはじめ、同胞社会の今年を記者座談会で振り返った。


朝鮮学校/

インターハイで大活躍
魅力ある学校を−内容・施設の充実図る

  朝鮮学校をめぐる今年最大の話題と言えば、何と言っても8月のインターハイ(全国高校総合体育大会)に大阪朝高サッカー部が出場したことだろう。

  まさに全国の同胞が沸いた。これまでもボクシング、ウエイトリフティングなどで出場していたが、団体競技では初の全国大会進出だった。それも朝鮮の国技と言えるサッカーだったからね。

  初戦で強豪の帝京と当たって接戦を繰り広げ、試合終了直前の劇的なゴールで同点に追い付いた。PK戦で惜しくも負けたが本当によくやった。

 B 同じインターハイのウエイトリフティングで、北海道朝高の朴徳貴君は金メダルに輝いた。3月の全国選抜に続いて全国大会2連覇の快挙だ。ボクシング、サッカー、そしてウエイトリフティング。今や朝高は高校スポーツ界にしっかりとその地位を築きつつある。

  スポーツだけではない。東北朝高の女子チームは全国高校囲碁選手権に初出場を果たした。日、英の各種スピーチコンテストや作文コンクール、絵画展など、各地の朝鮮学校生の受賞歴は数え切れないほどだ。

  東北朝高では、囲碁を選択科目に取り入れている。このように各地の初中高級学校では各校ごとにユニークな取り組みが増えている。朝鮮大学校でも4月から体育学部、法律学科、情報処理学科が新設されるなど、魅力ある大学作りへのリニューアルが行われた。

 A 言わばソフト面の充実を図る動きだ。11月には、朝鮮初中高級学校で2003年度から実施される新カリキュラム策定、新教科書編さん作業もスタートした。より同胞社会のニーズ、特性に合った教育内容が模索されている。

  創立40周年記念イベントの一環として校舎の全面改築を行った神戸朝高をはじめ、東北初中高が校舎新築、長野初中が移転新築するなど、ハード面の充実も続いた。こうしたなかで、生徒保護者をはじめとした同胞が、学校を支え、運営し、民族教育を発展させていく主体としてより前面に出てきているのも最近の特徴だと言える。

  来年以降の課題としては、総聯中央委第18期第3回拡大会議でも指摘されたように、朝鮮学校に通っていない同胞の子供たちをいかにフォローするかだ。民族学級や土曜児童教室など、様々な場を駆使しての「学校外民族教育」が模索されていくだろう。


民族教育権/

「一歩前進」 の大検解禁
幅広い支持へ−地域で多彩な取り組み

 A 朝鮮学校の処遇改善の面では、とくに大きな前進はなかったのでは。

 B 文部省は7月8日、朝高生の大学受験について正式には一切認めなかったこれまでの態度から若干譲歩し、大学入学資格検定(大検)というハードルを前提に認めることにした。大検の受検資格から「中卒以上」を外し、満16歳以上なら誰でも受検できるようにしたもの。各種学校であることから大検の受検資格さえなく、定時制高校や通信制高校にも籍を置くダブルスクールで大検受検資格を得てきたことを考えると、一歩前進と言える。

  でも抜本的な解決には程遠い。同胞らは朝高生の大学受験については、朝高卒の資格で直接受験できるよう求めてきた。しかし今回の決定が、同胞らの運動と内外世論の高まりを念頭に置いたものであるのは明らか。とうとう、文部省も動き出さざるを得なくなったのだとも言える。

  この問題を大きく扱った日本のマスコミも、抜本的な解決策が必要だとの論調で一貫している。今後も、「1条校」並の資格はもちろん、助成も含めて朝鮮学校処遇の全般的な改善を求める運動を力強く進めていく必要がある。

 C 地域での運動は地道に続けられており、支持も広がっている。地域差はあるものの、行政当局への要請行動や署名運動だけでなく、学校でのバザーやシンポジウム開催など、支持者の裾野を広げる方法論も多彩になっている。

 A 都道府県、市町村に対して独自の補助金などを求める地域の運動と、日本政府・文部省に対して抜本的かつ全面的な処遇改善を求める中央レベルの運動を、うまく絡めながら進めて行かなくては。

  経済界を中心に、日本の教育制度における規制緩和を求める民間の世論は強い。こうした層にもうまく訴えることができれば、より広範な支持を得ることもできるだろう。

  国際世論も大切だ。昨年は国連の2つの委員会が日本政府に朝鮮学校差別是正を勧告するなど国際的な世論が盛り上がった。今年も総聯各団体の代表が8月に国連人権委員会の差別防止少数者保護小委員会(現在は人権促進保護小委員会に改称)で、日本学校の朝鮮学校差別の不当性について訴えた。

 A 話は戻るが、大検解禁と同時に大学院入学資格弾力化に関する措置も打ち出された。原則的に朝鮮大学校から国立をはじめすべての大学院への道筋ができたことになるが、一部では受験を断ったケースもあると聞いた。

  大学受験に関しても、文部省が大検というハードルを正式に示したことによって、これまで独自の判断で直接の受験を認めていた公私立大の中で、大検のハードルを新たに課す大学が出る危険性がある。引き続き、きめの細かい対処と力強い運動が必要だ。


総聯/

活動方法の転換を宣言
同胞生活重視の運動へ

  今年は総聯にとって、まさに転換の年だった。運動の現状を直視し、初心にかえって真の同胞大衆団体になる決意を表明したのだから。

 B その場となったのが、9月の中央委員会第18期第3回会議拡大会議だ。徐萬述第一副議長は報告で「活動方法の転換」を宣言した。

  具体的な方向は、(1)在日3、4世など新世代同胞の考え、要求に合わせる (2)民団同胞や既存の組織と関わりのない同胞、日本国籍取得者など、対象の幅を広げる (3)国際情勢の変化、日本の実情に合わせる――の3点だ。

  すでに昨年5月の第18回全体大会で、真の同胞奉仕型組織として同胞の生活権利向上重視の方針を打ち出していた。今年3月の中央委第18期第2回会議では、その方針を具体化した課題、対策を示した。

  そうした方針に沿って、昨年から今年にかけて全国4ヵ所で、同胞の生の声を政策に反映させるための「同胞の生活と権利シンポジウム」が開かれた。そして今年、総聯大阪・生野南支部では専門相談員を置いた生野南同胞生活相談センターを新設した。川崎市議会健康福祉委員会は12月16日、同胞老人会に独自の補助を求める陳情書を採択したが、これは、総聯神奈川・川崎支部が、行政に対する要請を根強く続けた結果だ。

  拡大会議後はさらに、社会保障や福祉、権利拡大など、同胞の生活面を担当する同胞生活局が筆頭局に格上げされたのをはじめ、中央常任委員会の機構が改編された。現在、支部や生活サービス部門を強化する方向で組織全体の見直し作業が進められている。

  手前味噌になるが、なかでも反響が大きかったのが本紙朝鮮新報のリニューアルだ。「方法転換」の3つの方向に従い、真の同胞大衆紙を目指して10月に再出発した。まだ試行錯誤の途中で様々な意見もあるが、基本的な方向性自体は歓迎されているのでは。

 A 今後もリニューアルの目的、当初の精神を忘れず、つねに同胞の側に立って頑張っていかなくては。

  また10月16〜17日に開かれた「総聯分会代表者大会―1999」も、総聯と同胞社会の今後を考える上で意味ある場だった。世代交代や核家族化が進んでいわゆるトンポトンネ(同胞村)が減少し、目に見える社会・制度的差別の減少によって同胞組織に頼らなくても暮らしていけると思うようになる人が増加する中で、同胞の生活拠点=分会の新しいあり方のヒントが示されていた。

  総聯が「方法転換」を宣言してまだ3ヵ月。来年は、その内容が問われる年となるだろう。


環境/

解消されない生活の不安
「北の脅威」口実に進む右傾化

 A 昨年は、日本政府が朝鮮の人工衛星打ち上げを「弾道ミサイル」だとするキャンペーンを繰り広げ、朝鮮学校の生徒が刃物で切り付けられる事件まで起こったが、同胞の不安は払拭されたのだろうか。

  まだまだ実感は薄いのではないか。3月には千葉朝鮮初中級学校で何者かによって、窓ガラスが割られる事件が発生した。運動場を囲む塀の外側部分には、「ちょうせん人しね」「ちょうせんばか」と落書きされていた。

 C 昨年、総聯千葉支部の羅勲副委員長が殺害される事件が起きたが、真相はいまもって闇の中だ。そんな中で起こった嫌がらせだっただけに、生徒や学父母の不安は相当なものだった。その後も、県警の捜査員が朝銀や総聯職員を尾行したり、会館に出入りする日本人業者に暴言を吐くなど、事件究明や再発防止のための捜査、形跡がまるで見当たらなかった。

 A 一方、国会で朝鮮を第一の攻撃対象に定めたガイドライン関連法案や国旗・国歌法などが矢継ぎ早に成立されるなど、日本社会の右傾化が加速した感があったが。

  ガイドライン関連法案は、日本が第2次大戦で敗北して以来、放棄した交戦権を復活させる道を開いた。アジアの緊張状態を緩和させるのではなく、軍備を増強することで緊張関係を激化する対応だった。

 C 「ミサイル」騒動など「北朝鮮脅威論」が必要以上に煽られたのは、昨年と変わりなかった。

 A 就職活動をしていた京都の同胞学生が「朝鮮バッシングが激しさを増す中で、朝鮮に良くないイメージを持つ日本人も少なくないはず。職場で敢えて本名を名乗るべきか、正直いって考えてしまう」と言っていたことが忘れられない。

  日本政府は過去に対する反省がないまま、「北の脅威」だけを煽り、在日同胞の歴史的経緯や生活実態に目を向けていない。この状況が、同胞に心理的な負担を与えているのだろう。

 B 今月末には、7年間中断していた朝・日国交正常化交渉が再開した。朝・日間の負の歴史を克服し、平和な善隣関係を築くことが、同胞の住み良い環境づくりにも役立つだろう。


スポーツ・文化/

「民族」軸に新しさ追及
各種イベント通じ地域活性化

  スポーツに関しては、アジア大会や朝鮮の人民体育大会などイベントが多かった昨年に比べ、これといった動きは少なかった。そんな中、第7回世界陸上選手権大会・女子マラソンで優勝したチョン・ソンオク選手(24)や東京朝高出身のプロボクサー洪昌守(25)の活躍は、多くの喜びと感動を与えてくれた。

 B 洪は9月17日、東洋太平洋スーパーフライ級王座を手にした。「KOREA ONE」という文字と、朝鮮半島の地図が刺繍されたトランクス、朝鮮の映画「月尾島」のテーマで入場した姿も印象的だった。

  北海道在住の金太壌選手(24)は、「共和国選手権大会重量挙げ競技」(10月、平壌)で、94キロ級で2位と健闘を見せた。シドニー五輪に向けた予選でも、活躍が期待される。

  アマチュアのスポーツ分野では、総聯の支部対抗ゴルフおよび囲碁大会が北海道、東北、関東、東北北信、近畿、中四国などで開催され、同胞同士の交流、地域の活性化に寄与した。健康ブームで、登山の集いも多い。昨年から行われている支部対抗芸術競演大会では、地域で地道に活動している文化サークルをたくさん探せた。

  文化面では、若手による新しい取り組みが目を引いた。

  10月に京都で開かれた「アルン展―在日コリアン美術展」がその一例だ。「アルン展」は、1950年代から開催されてきた「在日本朝鮮人美術展」を同胞社会の多様性に目を向け、より開かれたものに発展させた企画。民団傘下や海外で活躍する同胞、米国、カナダなどの海外同胞、南朝鮮の留学生など今まで繋がりのなかった同胞が数多く出展した。

 B 5月からツアーを始めた金剛山歌劇団も、バックバンドに民族打楽器を加え、チャンダン(朝鮮半島固有のリズム)を現代的にアレンジするなど洗練された舞台を見せてくれた。民族楽器重奏団「ミナク」のアメリカ公演(17〜24日)など同胞芸術家の舞台は世界に広がりつつある。