出発の日、再会を約束/朝鮮大学校の卒業式
北海道から九州まで、日本全国から集まった朝鮮大学校の学生らは卒業後、寄宿舎で寝食をともにしながら育んだ学友との友情を胸に、再び全国へと散って行く。地元に帰る卒業生が多いが、幼い頃から朝大まで親元を離れて寄宿舎で生活し、卒業後も他の地方の職場に就くケースも。10日の卒業式では、互いの健闘を祈り、再会を約束し、父母の気持ちを思いやる学生らの姿が、そこかしこに見られた。
卒論テーマにみる朝大生の問題意識
大学卒業を前に、誰もが頭を悩ませるのが卒業論文の執筆。大学で学んだことの集大成だけに、テーマ選択も慎重になる。それは、10日に卒業式を終えた朝鮮大学校でも同じだ。では、「民族教育の最高学府」の卒業生たちは、卒論にどのようなテーマを選んだのだろうか。そこからは、朝大生の問題意識の方向が垣間見える。文系を中心に、4年制各学部の卒論のテーマについて見た。(東)
未来切り開く意思
まずあげられるのが、祖国・民族志向の強さだ。
主に政治経済、歴史地理、文学などの各学部の卒論だが、共和国の思想、政治、経済、社会、文学などあらゆるジャンルが揃っている。歴史地理学部では南朝鮮の民主化闘争の歴史、経営学部ではIMF(国際通貨基金)体制下の南朝鮮経済にスポットを当てたものなどもある。また政治経済、歴史地理学部などでは朝鮮戦争や日本の植民地支配など、朝鮮の近現代史関係の内容も目立った。
共和国の農業や食糧問題を扱った論文、マスコミの共和国報道を批判的に分析した論文、朝米関係や統一の展望を描こうとする論文などからは、祖国と民族に思いを寄せ、その未来を自ら切り開いていこうという熱い思いが感じられる。
一般的には馴染みの薄い共和国文学に対する文学部学生の取り組みなども、朝大ならではのものだ。
「言葉」にこだわる
民族教育のオリジナリティーが発揮されている分野が、在日同胞社会と関連するテーマだ。
経営学部では法理論、経済・経営、福祉・社会保障に関する問題を同胞社会に引き寄せて書いた論文が目につく。「在日朝鮮人の国籍に関する一考察」「パチンコ業界の歴史と今後の展望および経営戦略」「公的年金制度改革に対する批判的考察」「公的介護保険制度の問題点と対策について」などだ。
また朝鮮学校教員を進路に選ぶ学生が多いこともあって民族教育に対する関心は高く、「在日朝鮮人の民主主義的民族教育に対する差別の不当性」(政治経済)、「在日同胞子女の朝鮮語習得の特性と朝鮮語、日本語―総聯のバイリンガル教育について」(文学)、「(英語)前置詞教育の実効性を高めるためのいくつかの教授法について」(外国語)、「民族教育の日本語教育において音読・朗読指導が占める位置と対策」(同)をはじめ、教育差別の問題や、言語教育に関する実践的な論文も多数見受けられた。
「朝大生の言語意識と言語生活に対する実態調査」(文学)、「『在日朝鮮人語』と共生―言語に見る民族性」(外国語)などからは、「言葉」に対するこだわりが見て取れる。また「3世、4世における民族性の稀薄化について」(歴・地)、「新世代同胞青年の実態と今後の課題」(政・経)など、在日同胞としての「生き方」をテーマにしたものも少なくない。
時事問題にも敏感
世界に目を向けたグローバルなテーマ選択も増えている。時事的なものだけあげてもロシアやEUの経済、香港返還、ルワンダの民族問題、インドの核実験、開発援助、地球環境など、実に多彩。政治経済、歴史地理、経営、外国語の各学部に共通する傾向だ。
自分たちの住む日本社会に目を向けたものも多い。「自由主義史観に対する反論」(歴史地理)や「社会を映す若者語」(外国語)、また深刻化するゴミ問題に関する論文(歴史地理)などは、話題性のあるタイムリーなテーマと言える。
ただし、幅広いテーマを扱っていても、共通するのは在日朝鮮人である自分自身の立場で向き合おうとしていることだ。学問の探求も、自分自身の根っこがしっかりしていてこそ意味があるということを、朝大生たちは体現している。