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来年4月スタートの介護保険にこんな不安


 来年四月のスタートに向けて、介護保険制度の準備が急ピッチで進められているが、介護の要不要の判定や保険料の設定、サービス体制の整備など制度の根幹をなす部分を巡り、様々な問題が浮上している。在日同胞が制度を利用する場合には、固有の問題が生じる可能性もある。総聯は第18回全体大会決定で、在日同胞の同制度の活用に努めるとしているが、今後の成り行きを注視する必要がありそうだ。(賢)

 

「要不要」の判定にムラ/アクセスで難しさ

ランク落ちる恐れ

 同制度のサービスを受けるには、市町村の介護認定審査会から、介護が必要と判定されねばならない。

 判定は、本人や家族から聞き取ったデータのコンピューター分析(1次)、この結果と医師などの意見書に基づいた審査(2次)の2段階。介護が必要と認められると、体の状態に応じて6段階のサービスが提供される。

 問題は、一次判定で症状の重い人が低いランクに判定されるなど矛盾が生じる可能性があることだ。ランクが一つ違うと、受けられる在宅サービスの上限額で一ヵ月当たり数万〜10万円前後の差が出ると言われ、利用者への影響は大きい。

 昨年、各地で行われたテスト事業でこうした苦情が厚生省に多数寄せられた。その後、コンピューターの判定ソフトは改良されたが、問題は解消されていないらしい。今後さらに改良されるとしても、要介護認定作業の開始は10月に迫っており、間に合うかは疑問だ。厚生省は、現時点では一次判定の限界は2次で補うしかないとの立場だ。

 

現行でも少ない利用

 判定基準が不透明になるほど、行政や調査を担当するケアマネジャーとのコミュニケーションが重要になるが、その点、在日同胞には不安が残る。

 高齢の1世同胞が、1人もしくは夫婦2人で暮らしている場合、調査員との意思疎通はもとより、行政へのアクセスも容易でない。

 実際、ある自治体が調査した結果、現行の介護サービスの申し込み方を知っていた同胞高齢者は2〜3%程度で、外国人は利用できないと思っていた人は三割いた。サービス利用率も低く、ある地域では日本人と在日同胞の人口比が五対一であるのに対し、特別養護老人ホームの入所者数は18対1だった。

 介護保険制度では、判定に関する不服申立も可能だが、これまで行政の介護サービスと縁遠かった同胞らには、判定結果が自分にとって適切かどうかを考える基準すらないと言える。

 

準備作業に注視を

 在日同胞にはほかにも、高齢者からの保険料の徴収とサービス内容を巡って、固有の懸案材料がある。

 65歳以上の人の場合、保険料は年金から天引きされる。だが、来年4月1日の時点で74歳以上の同胞高齢者は、日本の年金制度から排除されたままの無年金状態にある。こうした人には市町村の職員が徴収に回るが、生活困窮のために保険料が支払えないケースも予想される。滞納には罰則規定もあり、社会保障からのさらなる「排除」になりかねない。

 サービス面では、かねてから言語・食生活など朝鮮人と日本人との文化面の違いへの配慮が少ないとの指摘があった。介護保険制度では、サービス体制の整備が遅れがちで、厚生省は2005年の時点で、全対象者が制度を完全利用した場合の6割のサービス提供を目標にしているとされる。この状況下で、在日同胞のニーズが積極的に汲み上げられるとは考えにくい。

 各市町村は来年2月ごろまでに、制度運営の要となる「介護保険事業計画」を策定する。中には、策定委員会に住民代表を入れている自治体も多い。

 同胞高齢者の制度の円滑な利用を図るには、地域で同胞の生活・権利擁護の役割を担っている総聯支部などが、市町村と積極的にコミュニケーションを図る必要が出て来そうだ。

 

制度のなかみ

 寝たきりなど要介護状態になったとき、所要の保険料負担のもとで在宅・施設介護に関わる一定の給付を行う制度。保険者は市町村と特別区で被保険者は40歳以上(強制加入)。保険料は65歳以上は年金から天引きされ、それ以下は医療保険に上乗せされて徴収される。市町村から要介護と認められると、体の状態に応じて決められた費用の範囲(六段階)でサービスを受ける。介護費用の一割も、利用者負担になる。