朝鮮学校の場所(2)/新しい「学校のかたち」
揺らぐ従来の枠組み/柔軟性問われるに本の教育行政
独自の理念を実践
和歌山県にあるきのくに子どもの村学園は、従来の学校のイメージを覆すユニークな学校だ。
異学年混合の完全な縦割り学級制で、授業の半分が体験学習。児童・生徒は毎年4月、農業・料理、木工・建設など体験学習の内容別に編成されるクラスを自分で選ぶ。小学校の時間割りにある科目名は「プロジェクト(体験学習)」、「ことば」、「かず」、「自由選択」だけ。授業時間も一定ではなく、45分から2時間半まで様々だ。国語が「ことば」、算数が「かず」。理科や社会、家庭、体育、音楽、図画などを通じて学ぶべきことはすべて「プロジェクト」の中で身につける。体験を通じて「生きた学力」をつけるのが同校の方針だ。
同校は92年4月の創立に当たり、正規の私立学校、つまり「1条校」として認可されている。
教育学者でもある堀真一郎校長(元大阪市立大教授)は「いわゆる無認可のフリースクールではなく、認可を受けた正規の学校を作るのが当初からの目標だった。様々な子供がいるのだから、様々な学校があっていい。国の力では手の届かないニーズに応えているのだから、国から認められ保護を受けてしかるべきだ。その意味では朝鮮学校も、堂々と胸を張って権利を主張していい」と話す。
独自の教育理念を実践する「新しい学校」を作る動きは増えている。
高校を中心に、文部省も新しいタイプの特色ある学校作りを進めている。
例えば88年度から導入された単位制高校。学年はなく、卒業に必要な単位を生徒が自由に選択するシステムだ。現在、全国に260余校ある。また94年度から設置が始まった総合学科も、システムは単位制高校と同じ。学びたい科目を自由に選べる。設置校は120余校に達する。
個性化、多様化を目指す特色ある高校作りの重点施策である単位制高校と総合学科。双方とも公立を中心に私立もあるが、もちろんすべて「1条校」だ。
民族教育に追い風
「1条校」に準ずる処遇を求めてきた朝鮮学校は、文部省学習指導要領改定に沿ってカリキュラムを改定するなど、民族性を育むうえで欠かせない国語、朝鮮の歴史や地理などの民族科目以外は、極力「1条校」の教科内容に近づけてきた。
2002年度から実施される文部省の新しい学習指導要領は「ゆとりの教育」を目指し、教科内容をこれまでの約7割に削減した。例えば、「国語」の授業時間は小学校6年間では1601時間から1377時間に、中学校3年間では455時間から350時間に減った。
ここに示される授業時間数は「1条校」の条件として学校教育法施行規則で定められるが、朝鮮学校の現行カリキュラムの「日本語」をこれと比較すると、初級部6年間は1011時間で週に1時間分足りないだけ。中級部に至っては455時間で、現在の朝鮮学校の方がはるかに多い。
「1条校」のハードルは低くなり、その形態も多様化している。民族科目と使用言語さえ除けば、朝鮮学校の方が従来の「1条校」的な感さえある。
認可された正規の学校ではないものの、不登校児などを受け入れる民間のフリースクールは年々増加し、今やオルタナティブ・スクール(もう一つの学校)としてすっかり市民権を得ている。フリースクールの子供たちには、学籍を置く公立小中学校の卒業資格も与えられる。
「学校」の形が多種多様になり、従来の枠組みには収まりきらなくなっている。教育行政における文部省のより柔軟な対応が求められている現状は、正当な処遇を求める朝鮮学校のたたかいにとって追い風となるだろう。 (東)