同胞の生活と権利 Q&A(上)
在日朝鮮人人権協会から近く出版される「同胞の生活と権利Q&A」の内容の一部を、抜粋・要約して紹介する。なお、文中に「朝鮮表示」「韓国表示」とあるのは、いずれも外国人登録上の国籍欄の記載を指す。
子供の国籍
日本女性と結婚したが/手続き経て「外国人」に
Q 私は朝鮮表示の男性だが、日本人女性と結婚した。子供が生まれた場合、外国人登録させるにはどうすればよいか。
A この場合、子の国籍は共和国、「韓国」、日本の3つの国籍法で処理される。これら3つの法律では、いずれも父母の一方がその国籍を持っていれば、子はその国籍を取得できる。従ってこの子は、法律的には共和国と「韓国」、日本の重国籍になっている。
しかし、この子は日本国籍を持っていることから、日本の戸籍、ここでは日本人である女性の戸籍に子として記載されている。この場合、日本の法律上は外国人ではないので、外国人登録はされない。
外国人登録をして証明書を持つには、日本国籍を離脱する必要がある。
日本国籍離脱には外国国籍を持っていることが要件だが、前述のとおり、この子はそれを満たしている。
外国人登録をした場合の国籍欄の表示は、親の表示を引き継ぐのが原則なので、「朝鮮」となる。
婚姻届
戸籍謄本が必要なの/本人の申述書でOK
Q 私は朝鮮表示だが、婚姻届を役所に提出しに行ったところ、「韓国の戸籍謄本を提出しなければ受理できない」と言われた。どうすればよいか。
A 何よりもまず、世界のほとんどの国と同じく、共和国には戸籍制度はない。従って朝鮮表示の同胞に戸籍謄本の提出を求めること自体が無理ということになる。
役所が戸籍謄本の提出を求めるのは、「婚姻年齢に達しているか」「重婚にならないか」「性別はどうか」など、婚姻成立の要件を具備しているかどうかを形式的に審査するためだ。
だから婚姻成立の要件を具備していることを明らかにすれば、婚姻届を受理する扱いがなされている。
こうした婚姻要件を備えていることを証明するには、戸籍謄本でなくとも、本人が作成した「本国法上、婚姻要件に障害がない」旨の申述書を提出すれば婚姻届は受理される。(申述書の様式は「Q&A]に所 収)
法廷相続人
どんな基準で決まるの/亡くなった人の国籍
Q 在日同胞の相続の場合、法定相続人はどうなっているのか。
A 一般的には亡くなった人(被相続人)の国籍の法律により相続人と相続分を定めている。実務上は、被相続人が朝鮮表示の場合は日本人の相続と基本的に同じだ。しかし「韓国」表示の場合は、朝鮮表示の場合と違う面があるので注意が必要だ。例えば、次のような相違がある。
被相続人が朝鮮表示で、その人に子や孫などの直系卑属と親などの直系尊属がいないときは、その配偶者が兄弟姉妹といっしょに同順位の相続人になる。しかし、「韓国」法が適用された場合には、配偶者のみが単独相続人になり、兄弟姉妹は相続人にならない。
次に、被相続人に配偶者がなく、子や親もない場合は、朝鮮表示も「韓国」表示も兄弟姉妹が相続人になることに変わりはない。しかし、相続開始前に兄弟姉妹が死亡した場合、朝鮮表示であれば兄弟姉妹の子までしか相続できないが、「韓国」表示では兄弟姉妹の孫以下も相続できる。
年金受給
「カラ期間」はなぜ重要/断念の人に権利発生も
Q 老齢基礎年金にいう「カラ期間」とはどういうものか。また何故、在日同胞にとって重要なのか。
A 老齢基礎年金の支給要件の原則は、「25年以上の受給資格期間を満たしている者が満65歳に達したときに支給する」だ。
普通、年金なり保険は、規定の期間加入しなければ受給権が発生しない。
ところが国民年金においては、一定の条件にあてはまる未加入期間が、資格期間に通算してもらえる。その一つに合算対象期間がある。
ただし、合算対象期間は年金を受ける資格とだけ関わるのであり、年金の額には全く反映されない。それで「カラ(空っぽ)期間」と呼ばれる。
老齢基礎年金の額は満額(保険料納付済期間が40年の場合)で年額80万4200円だ。
25年ギリギリで資格を得たり、資格期間に「カラ期間」などがあると額はかなり下がる。
在日同胞にとってとくに重要な「カラ期間」は、在日同胞が国民年金制度から排除されていた、1961年4月1日から81年12月31日までの20年9ヵ月だ。
この時期に20歳以上、60歳未満であった期間が当てはまるので、最も長い人で20年9ヵ月、最も短い人で9ヵ月の「カラ期間」を持っている。
年金の受給を期待していない同胞中高齢者の中にも、保険料を数年分払うと受給権が発生する人がいるということだ。
在留資格
外国人を雇いたいが/「不法」は重罰要注意を
Q 人手不足で来日中の外国人の雇用を考えている。留意点を教えて欲しい。
A 日本政府は、専門・技術的分野の専門家は可能な限り受け入れることとするが、いわゆる単純労働者(出稼ぎ)は原則的に受入れない、との外国人労働者受入れに関する基本方針を打ち出している。
外国人の在留資格は27種類あるが、就労が認められるもの(技術、技能など)と認められないもの(留学、短期滞在など)、そして就労に制限がないもの(定住者、永住者、日本人の配偶者など)がある。
これらの在留資格や在留期限は、外国人登録証明書または旅券、就労資格証明書、資格外活動許可書などで確認できる。
在留期限を超えて不法滞在している外国人が就労した場合には、不法就労となり強制退去などの処置が講じられる。
雇用した事業主は、場合によっては3年以下の懲役または200万円以下の罰金を課せられることがある。在留資格、在留期限は、必ず確認しておくべきだろう。
いやがらせ
右翼の街宣を防ぐには/裁判所の仮処分で抑止
Q 右翼の街宣車が店や自宅の周りで、大音量で嫌がらせを執ように繰り返している。警察にも取り締まりを要請してるが消極的だ。良い方法はないか。
A 裁判所に対し、「業務妨害禁止の仮処分」を申し立てることが考えられる。これは裁判所に、右翼の街宣車の写真やビデオテープ、録音テープなどを証拠として提出し、「店の半径500メートル以内での街頭宣伝行為を禁止する」旨の決定を出してもらうものだ。
これを所轄の警察署に提出して、取り締まりを強化してもらうことができる。また裁判所は決定を出す前に、相手を1、2回呼び出して事情聴取するので、これも相手方に対する抑止効果がある。仮処分は仮の裁判なので、申し立てから決定までは10日前後と短期間で結果が得られる。
ただし右翼の街頭宣伝も、原則として政治活動の自由という憲法上の権利として保障されているため、その人権保障にも配慮が必要とされている。仮処分の申し立て手続きは、弁護士に相談した方がいいだろう。