市・区に対する「保護者補助」要請/朝鮮学校保護者ら運動のポイントは?
6月議会が開かれている各地の市や区に対し、公的助成の少ない朝鮮学校に子供を通わせる保護者を対象にした「保護者補助」を支給するよう求める同胞らの要請行動が活発だ。しかし、◇財政難◇私学助成は都道府県の管轄――などと消極的な市や区も多く、差別状況を解消して学校を守って行こうという同胞らの運動は困難を経ている。運動におけるポイントは何だろう。この問題に詳しい鄭秀容・在日本朝鮮中央教育会副会長のアドバイスをQ&Aにまとめた。(慧)
実施は自治体の決心次第
法的根拠ある朝鮮学校助成
Q 要請に行くと、行政当局は助成が難しい理由として、◇私立学校、各種学校への助成は都道府県の管轄◇財政が厳しい◇他の私立学校とバランスが取れない――などをあげるが。
A まず、私立学校振興助成法第16条は、地方自治体が各種学校に補助を実施できると定めている。また地方自治体法第232条2項は、地方自治体が「公益上必要がある場合においては」任意の対象に補助を行うことができるとしている。
こうした条文を根拠に、例えば川崎市では川崎初中に対し、県が私立学校に支給する水準の補助金を支給している(表参照)。「公益上必要がある」と判断し、元来政府・都道府県が行うべきことを代わりにやっているのだ。
さらに日本国憲法第26条の「教育を受ける権利」は国民のみならず日本に滞在する外国人にも保障されると解釈される(日弁連など)。これは、「教育の機会均等」をうたった教育基本法にも該当する。国連子どもの権利条約などの国際条約も民族教育の権利を保障しており、在日同胞の助成要求には十分な法的根拠がある。
バランスうんぬんというが、朝鮮学校をほかの私立学校と同一視すること自体誤りだ。ほかの私立学校は政府・都道府県から私学助成を受けているが、朝鮮学校の場合、政府からの補助は一切なく、都道府県からの補助も少額。市や区が補助を実施してこそ、差別状況が解消されバランスが保てる。在日同胞にも日本人と同じ納税義務があるのに、子供に民族教育を受けさせようと朝鮮学校を選択した場合、教育費の還元はない。明らかな不平等だ。
東京・大田区は1980年、東京第6初中(当時)保護者らの度重なる要請の末に民族教育の正当性とその権利を認め、都内で初めて保護者補助金制度を設けた。これは、補助の実施如何は地方自治体の決心次第だということを如実に示している。
公開授業やバザー、交流を
日弁連勧告活用しよう
Q 民族教育に対する理解を深めてもらうにはどうすればよいか。
A 市議や区議、行政当局、それを支える一般の市民らの間で理解を深めるためには、まず教育現場を見てもらうことが大切だ。公開授業やバザー、各種文化・スポーツ交流などを頻繁に行うのがいい。民族教育に対して理解ある議員、職員らが増えてこそ、議会や行政当局がその正当性と権利を認め、助成実施へと動き始めるようになる。
公開授業やバザーは最近、各地で盛んに行われているが、例えば東京第九初級の保護者らは3年前から日本市民らにも広く呼びかけ数千人規模のバザーを開くなど、地域に根付いた活動を行ってきた。その結果、3月には都教委の職員が研修の一環として同校を訪れた。新潟、兵庫、大阪、京都などには、民族教育を支援する日本市民らの団体ができ、活動している。
また民族教育に対する理解を深めるうえで、昨年2月、日本政府に朝鮮学校差別是正を勧告した日本弁護士連合会の勧告書・調査報告書をもっと広く活用すべきだろう。例えば大阪府民族教育対策委員会では昨年1年間、26ヵ所で同勧告に関する学習会、講演会を開き、延べ1000人以上が参加している。
日弁連の勧告後、愛知・豊明市、兵庫・伊丹市、神奈川・川崎市などの議会が相次いで朝鮮学校の法的地位改善を求める意見書を採択、日本政府に提出したが、こうした意見書の採択も、議会の総意を表明するものとして重い意味がある。市・区議会に採択を求めていくのも必要だ。例えば伊丹市は意見書採択後、補助の増額を検討し、今年4月から伊丹初級に日本の公立学校と同水準(市負担分)の補助金を支給している。
窓口定め、繰り返し交流を
団結した、広い視野で
Q 要請に行く度に担当者が変わるし、いくら要請しても行政当局の態度が変わらないが。
A 市・区には朝鮮学校を担当する部署がない。まずは行政当局が民族教育の制度的保障を検討するための窓口を設けるよう求め、普段からそこと交渉し、議論を深めなくてはならない。さらに大阪市民族教育対策委員会では交渉の場に、市の担当窓口となっている総務部はもちろん、市教委や民族教育に理解のある市議も同席するようにしている。
また態度が変わらなくても諦めず、繰り返し根気よく要請することが必要だ。3、6、6、12月の定例議会の時期に要請するのはもちろん、地域で民族教育と関連した行事が行われる際には欠かさず参加するよう招待状を持って訪ねていくなど、日常的に、機会あるごとに顔を合わせることが大切だ。
要求内容は、すべての児童生徒に適用される保護者補助を支給するよう求めていくことが基本だが、市区町村が義務教育課程の子供たちを対象に支給する各種の就学援助や幼稚園児対象の就園奨励補助、さらに奨学金や通学バス費用などを求めていくのも、突破口を開いていくための一つの方法だ。
権利は与えられるものではなく自分の手で勝ち取るもの。そのためには団結した力が必要であり、団結するためには組織が必要だ。支部、オモニ会、アボジ会が団結し、根気よく、緩みない運動を繰り広げていくことが補助獲得、増額の道を開く最善の方途だ。
運動は政令指定都市はもちろん、朝鮮学校のあるすべての市、区で同時に行わなくてはならない。運動の結果、民族教育を積極的に保護、奨励する市や区が増えれば、それ自体が日本政府の差別政策を是正させるための強力な世論となる。
単なる補助金獲得運動としてではなく、民族教育権の制度的保障を目指すという広い視野に立って進めることも忘れてはならない。
朝鮮学校に対する補助に積極的な市、区の一例(98年度実績)
自治体 |
名目 |
金額(年度) |
東京都 23区 |
保護者負担軽減補助金 | 江戸川区18万円(児童生徒1人あたり) |
大田区13万2000円(同) | ||
など | ||
神奈川県 川崎市 |
学校児童等保護者補助金 | 7万2000円(同) |
幼稚園保護者援護費 | 31万2000円(5歳児1人あたり) | |
教育用備品教材教具購入補助 | 川崎初中に207万円(南武初級に別額) | |
教員研修費補助金 | 同30万円(同) | |
校庭改修費補助 | 同755万円(臨時) | |
兵庫県下 7市 |
奨学金 | 神戸市16万8000円(高級部生1人当り) |
伊丹市1万8000円(中級部生1人あたり) | ||
など |