訪朝した明石康・元国連事務次長に聞く

人道支援できるし必要/対話への意欲も十分


 元国連事務次長の明石康・人口問題協議会会長が6月29日から3日まで、2年ぶりに朝鮮民主主義人民共和国を訪問した。訪朝の目的、共和国への人道支援、日朝の関係改善など懸案の問題について聞いた。(嶺、文責編集部)

 

――今回の訪朝の経緯と目的について

 2カ月ほど前、ニューヨークで朝鮮の李衡哲国連大使に会った際、訪朝したいとの意向と、私が議長を務める北東アジアの平和と安全に関する国際シンポジウムに招待したい旨を直接、関係者に伝えたいと話した。その後、李大使から、「いつでも歓迎する」という手紙をいただいた。

 シンポジウムは毎年京都で行われているもので、日朝の研究者、学者が出席し率直な意見交換をすることは、政府間の関係改善にもつながるのではないかと考えた。

――2年前の訪朝に比べてどうだったか

 平壌で崔守憲外務次官、軍縮平和研究所の千龍福副所長、日朝友好親善協会の宋浩京会長、外務省の宋日昊課長などと会った。

 崔次官とは2年前の訪朝の時も一緒だった。ニューヨークで国連総会に出席した際には、かなり率直な意見を交わしたこともある。そういう間柄でもあるので、食事をしながら3時間ほど話をした。

 97年6月の訪朝の時は、国連事務次長という立場であったし、世界食糧計画(WFP)で朝鮮への第3次緊急アピールが出た直後で、被災地も回った。平壌にあるWFPの事務所を通して、食糧の配給状況などモニタリングをした。

 2年経って改善されている部分もあるが、今年は、かんばつで依然厳しい状況にあるという話を聞いた。WFPの調査報告では、今年も秋までに100万トンの食糧が不足しているという。

――今回の訪朝について日本側の反応はどうだったか

 今回は私的なものではあったが、行く前に関係者と話をして行った。帰国後は、なるべく正確に朝鮮側の意向を伝えたつもりだ。だが、マスコミの対応には少し驚いた。それだけ、対話が不足しているということなのだろうが、かなり不正確に伝わった部分もある。

 1つは、ミサイルのことに関してだ。訪朝後の北京での記者会見は、一連の流れの中で触れたつもりだ。朝鮮側はミサイル問題について、これは自主権の問題で米国、日本にとやかく言われる筋合いのものではないが、日本を威嚇するためのものではないと言っていた。ミサイルのことは、一部の報道機関がとびついて、歪んだ報道になってしまったと思う。

――現在、中断している日朝国交正常化交渉再開には何が必要か

 朝鮮側は、日朝国交正常化交渉の大前提となるのは、過去に対するきちんとした謝罪とそれに伴う補償だと考えている。

 私は、そのための日本側のアプローチとして人道支援があると思う。人道支援は「拉致問題」などでむずかしいが、やるべきだと思うし、できると思う。

 今回、話をする過程で、朝鮮側は日本に対して強硬に構えているかと思ったが、対話に対する意欲も十分にあることをうかがうことができた。鎧の下に衣を覗かせていた。

――対話の意思を伝える有効な手段は

 相手の考え方が正しい、正しくないという判断ではなくて、まず相手の考えていることを正確に知ることが大事だと思う。

 私の話に対して朝鮮側は、ミサイルが日本にとって脅威というが、ガイドラインなどは朝鮮にとって脅威となる。自分たちの受ける脅威は、軍事費からみても日本の30倍以上だと数字と根拠を出して反ばくしていた。

 日本側はミサイルだ、テポドンだと過敏に反応せず、もっとコミュニケーションをとるために努力すべきだ。

 日朝の政府間にきちんとしたパイプを作ることも大事だが、そこに至るための学者、研究者らが正しい認識を持てるような交流も必要だ。無責任な雑音に振り回されることなく、大きな流れの中での日朝関係をとらえるべきだ。

 私のこうした意見に朝鮮側も同意してくれた。

 国連という舞台で40年間務めてきた。その間、色々な国の紛争も見てきた。とにかく、日朝が近くて近い国になるためにできる役目があれば尽力していきたい。