同胞遊技業経営セミナー講演要旨


 商工連・同胞遊技業研究会の主催による「同胞遊技業経営セミナー」(21〜22日、東京)で行われた講演「生き抜くためのパチンコ店経営」(佐藤幸男―(株)ビジネスコンサルタント・マネージングコーディネーター)、「今後の業界動向について」(姜誠―ジャーナリスト)、「財務リストラクチャリングの知恵と戦略」(蓮見正純―(株)プロジェスト代表取締役・公認会計士)の要旨を紹介する。(文責編集部)

 

ファン増やす経営を/「生き抜くためのパチンコ経営」

佐藤幸男

 パチンコ業界では売上が減り、しかもバブル時代の借金はなかなか減らない。人件費は相対的に増え続けており、三重苦の時代を迎えたと言える。

 店長クラスに売上が上がらない原因を聞くと、「近くに新店が出たから」「新装開店を頻繁にやる店がほかにあるから」などと、理由を外部に求める答が多い。自店の課題をみつけられなければ、売上を増やす戦略など生まれない。

 最も大事なのは、会社をどのようにしたいのか、社会からどのように認識されたいかという理念、コンセプトを明確に描くことだ。

 90年代半ばにピークを経験したパチンコ業界は、今や成熟期に入った。

 市場が成熟すると需要が供給を下回り、顧客の分捕り合い(シェア競争)が激化する。客が増えないのだから、まずは今の客を逃がさない戦略が必要になる。

 そのために、データベースマーケティングを行う。これは、顧客の行動・購買履歴を追って適切に区分けし、それに基づいたサービスを行うものだ。ヘビーユーザーにはそれなりのサービスを還元するもので、航空会社のマイレージサービスがその例だ。

 成熟期の特徴としてはほかに、顧客の選択眼が厳しくなる、競争の重点がコストとサービスに移る、価格訴求から価値訴求に変化する、ということが挙げられる。

 パチンコ業界ならば、機械の面白さや出玉に関する情報を豊富に持っている客と心理戦を繰り広げながら、儲けを薄くして客数を増やす仕組みづくりが必要だということだ。

 売上のデータにばかり関心があり、客の考えに興味を持てないようではいけない。釘を打つにも、客の顔を見ておくことが必要だ。

 売上が上がらない要因は、「その原因をつかめていない」「客の期待に合ったサービスが提供されていない」など、すべて内部にあると考えるべきだ。

 今は既成の価値観を転換する変革期にある。既成の価値観とは、@今まで成功したこと、うまくいったことA今までの業界の常識B習慣的にやり続けていること、などだ。

 変革をするにも、脅威が差し迫っておらず環境の劇的な変化に見舞われる前ならば、過去の延長線上での「調整」で済む。しかし、抜き差しならない状況に陥ってしまえば、より複雑で本質的な「再建」が必要になる。実際には、備えを怠り再建を余儀なくされている店が多いのではないか。

 激しい競争を生き抜くには、顧客主導の営業戦略で店のイメージアップ、ファンづくりを図り、地域でのナンバー1をめざすことだ。

 この際、自分の店は「どういう客」の要求に応えるかを絞り込むことだ。そして彼らが求めるサービスを提供し、店との信頼関係を築き、ファン化する。

 顧客との信頼関係を築くには、積極的なアピールも必要だ。ある店では、老朽化した設備を敢えて更新しないこと、そこで浮いたコストを出玉に還元することを看板に大書している。この店はかつて倒産が噂されていたが、薄利多売の戦略に転換し、宣伝戦術を駆使することで蘇った。

 成功している企業の特徴としては、妥協の無さ、決断の早さ、若手の抜擢がある。やり方を転換しようとする時、頭の固まった人材より、若手を抜擢したほうがよほど迅速に行動できる。

 

経営効率の重視必要/「財務リストラの知恵と戦略」

蓮見正純

 企業の価値には2つの要素がある。1つは事業の価値で、パチンコ店ならばホールの営業で稼ぎ出した利益のことだ。もう1つは財産の価値で、不動産などの財産から稼ぎ出される利益だ。これまでは事業の収支がトントンでも、地価の上昇につれて企業価値が上がっていた。

 しかし、地価の下落によって企業の自己資本は大幅に減少し、企業収益を大きく上回る借入金が残った。 現時点ではパチンコ業界の優良企業と言えども、借入金の残高が土地などの担保価値を上回っている傾向が見られる。

 銀行は自己資本比率規制の都合もあり、こういった「借り過ぎ」企業から資金の引き揚げにかかっている。今後は資金不足を自助努力で解決するキャッシュフロー(資金流入、現金流動化)経営に転換する必要がある。

 キャッシュフロー経営とは、「回収を前提とした投資」が原則となる経営であり、経営効率重視の経営のことだ。

 望ましい形としては、まず「投資の回収が、事前に予定したペースを上回っていること」が挙げられる。これだと借入金の返済も予定通りで、かつ余剰資金の一部で新たな投資ができる。

 次に「予定した回収期間が投資物件の使用可能期間より短いこと」だ。新築ホールの耐用年数が10年ならば、借入金は10年以内に返済すべきだ。そうしてこそ、新たな事業展開、他社との競争が可能になる。

 以上のような状態に持って行くには、@事業戦略の見直しA財務戦略の見直しを行う必要がある。

 事業戦略の見直しでは、収益の改善、事業の再編を図る。

 収益の改善策は、必ず店舗別データに基いて立てる。どの店舗からどの位の損失が出ているのかを知ってこそ、初めて策は立つ。資金流出の原因を突き止めずにいることは、最も危険だ。

 バブル期に資金をかけ過ぎた店が経営を圧迫しているなら、ローコストの新店舗で利益を上げ、補うしかないだろう。

 予算と実績の差異分析ができる経営情報システムも導入すべきだ。膨大な数値計算は、もはや手書きでは間に合わない。数年前なら数億円はしたシステムも、今ならかなり安価に導入できる。

 情報の数値化はおざなりにされがちだが、経営者と店長、スタッフが認識を共有するうえで絶対必要だ。経営者が率先して、計数管理に取り組むべきだ。

 財務の見直しでは、含み損の顕在化、不用不稼働資産の売却、タックスプランニング、増資などの方法でキャッシュフローをねん出する。

 含み損を顕在化させるには、例えば次の方法がある。

 事業で収益が上がっているのに含み損のある不動産を所有している場合、これを子会社や関係会社に売却し、売却損を出す。

 また親会社が債務保証をしている赤字子会社があれば、これを精算し、親会社で貸倒損失を計上する。

 競争激化の時代、これらの処置を早く行った企業が生き残れるだろう。

 

犯罪対策で大きな波/「今後の業界動向について」

姜誠

 パチンコ業界に対する行政の姿勢は、育成と取り締まりとの間を揺れて来た。しかし今、それは明らかに取り締まりに傾いており、その動機付けにも変化が見られる。

 グローバル化が進む中で、急速に国家のコントロールが弱まっている分野が4つあると言われる。金融経済、情報技術、環境問題、そして犯罪だ。

 犯罪の中でも、インターネットなどの仮想空間に関するものは、取り締まりが非常に難しい。パチンコ店では裏ロム、遠隔操作などのハイテク犯罪が頻発している。しかも密航してきた外国人グループがそれを行い、カネが国境を越える。 行政はパチンコ業界を、国家の威信を揺るがす源として見ており、タガの締め直しが必要だと考えている。

 不正行為に対するセキュリティ強化の流れの中で、遊技機の頭脳部に当たるチップに通信機能を持たせた「通信チップ」が開発されている。

 通信チップは一つひとつがIDを持ち、ロムが偽物かどうかの信号を出す。また貸玉数、払い出し玉数、差玉といった経営情報も通信できると言われる。

 開発企業はチップについて「不正対策に有力なツール」と説明しているが、コンピューターとのネットワークをなすシステムとして導入しなければ意味がない。

 通信チップとそのシステムは、導入が義務化されているわけではない。しかしパチンコ店は、不正とは無縁であることを社会に示す「アリバイ証明」として、導入していかなければならないのではないか。

 ここで、問題点が2つある。システムの導入・ランニングコストが分からないことと、経営情報が開示された場合にだれが管理するかという問題だ。

 実際に導入することになれば、業界はプリペイドカードの時のように一方的に負担を押し付けられるのではなく、安いもの、競争原理の働くものを求めて行くべきだ。情報管理も、業界の力でやっていくことを考えるべきだろう。

 そのためには、業界の一致した姿勢、努力が求められる。

 ほかに、業界の動向で注目されるのは大手のローコストオペレーション、薄利多売による大規模なチェーン戦略がある。

 ある業界トップチェーンは、店舗設計を完全に標準化、低コスト化している。コストや収益率は細かく指標化されており、それを外れる形の投資はしない。

 また低く抑えたコストを客に還元する薄利多売を打ち出していて、換金率も高い。

 ある地方都市にこの企業が出店したところ、競争が激化し、競争力のない店は次々淘汰されている。

 しかし、必ずしもこうした大手企業だけが勝ち残るとは限らない。中小店も地域密着、地域貢献などをキーワードにした特色ある経営活路を探るべきだ。

 大資本は既存のパチンコ業界を、弱いと見ている。戦略、業界の意思統一、企業が上場できないことから来る資金力の弱さなどを見て、本気で行けばすぐに勝てると考えている。

 現在の取り締まりは、規制緩和の前触れと見るべきだ。セキュリティーさえ担保できれば、数年後には大幅な緩和が行われるかも知れない。それに対処できる態勢が必要だ。

 業界で最も強いネットワークを持っているのは在日同胞だ。そういう持ち味を生かした戦略が必要だろう。