留学同サマーセミナー「マダン99」・箱根/学生らの問題意識は…
日本の大学、専門学校で学ぶ同胞学生らが交流する夏の恒例行事、サマーセミナー「マダン99」が、2〜5日に神奈川県の箱根高原ホテルで行われ、220余人が参加した。在日本朝鮮留学生同盟が主催しているもので、内容は民族のアイデンティティや朝鮮半島情勢をテーマにした講演・討論と、運動会や文化公演などのイベント。「マダン99」を通して、「朝鮮人としての生き方」に関する学生らの問題意識の在り方を見た。(慧)
民族心
足りないもの満たす努力こそ
自問自答繰り返して磨く
「マダン99」は、関東地方の学生らによる演劇「自他んだ」で幕を開けた。
舞台は、ある大学のゼミ。12年間の民族教育を通じて、自分を「完璧な朝鮮人」と考えていた主人公の同胞青年が、ともに学ぶ南朝鮮の留学生や同胞学生から、生活感覚や社会経験など祖国の人々との違いを指摘されたうえに、「日本人と変わらないくせに」と追及され、自らの民族的アイデンティティに疑問を抱く。
「朝鮮人としての証しは何なのか」「朝鮮語を話し、本名で暮らし、キムチを食べていれば朝鮮人なのか」――。
苦悩する主人公の姿に、自分がダブって見えるという学生が少なくなかった。
金明美さん(立命館大学3年)も、そのうちの1人だ。
京都朝高を卒業した金さんは、12年間も朝鮮学校に通ったのだから、自分の民族のことは良く知っているつもりだった。
しかし大学に進み、留学同の活動を通して日本の高校(日校)出身の友人たちと交わるうちに、その自信が揺いできた。
「学校で教わったはずなのに、朝鮮についての彼らの質問にきちんと答えられなかった。自分に、学ぶ姿勢ができていなかったからだと思う」
言語、風習、歴史や文化の知識、そして食生活。民族のアイデンティティを考えるうえで、「基準」になると思われる要素はいくつもある。
問題は、及第点がどこなのかは誰にも言えないことだ。
「自分に朝鮮人として何かが足りないと思ったら、満たす努力をしていけばいい。問われているのはその姿勢だ」。劇の終りで主人公は、こう結論付けた。
演じた鄭○成(○は浮ノ灬)さん(早稲田大学3年)自身も、「民族心は、本物かどうかと自問自答する過程で磨かれると思う」と同意見だ。
金さんは大学に入り、朝鮮語を勉強し直した。今は週に1度、日校出身の友人らに朝鮮語を教えている。
朝鮮人として自分にできること、すべきことをする。このことは金さんにとって、民族心の追求と一致している。
差別社会
変わるべき周囲
自分貫き影響与える
今回の参加者中、日校出身者は3分の1。大多数が、以前は通名を名乗っていた。
四国学院大学4年の姜光雄さんもその1人だ。尼崎市出身の姜さんは、高校の時に本名宣言。入学後、地元の朝青員や留学同の仲間と出会うたびに、朝鮮人として本名で生きていこうとの思いを強くした。今回、マダンに初めて参加したのも、そういう場を求めてのことだ。
同胞学生どうし、同じ境遇の若者どうしが集う留学同は、本当の自分をみつめ直し、表現して行くきっかけを与える。
しかし、学生らがいくら朝鮮人らしく生きたいと願うようになっても、卒業後にはそれを受け付けない現実が、再び日本社会で待ち受けているのも事実だ。
3日目午後、卒業を控えた学生どうしの討論。
「共和国バッシングが激しさを増す中で、朝鮮に良くないイメージを持つ日本人も少なくないはず。それなのに、職場で敢えて本名を名乗るべきか、正直いって考えてしまう」
同様の不安、悩みが次々に吐露された。
これに対し、金涼雅さん(立命館大学4年)は「自分が本名を名乗って行くことで、周囲の日本人の朝鮮人に対するイメージは変わるはず。それこそが後輩が進む道を広げるのでは」と話す。
同胞青年が苦悩を乗り越える歩みの一つ一つが、差別を乗り越える大きな一歩につながる。
セミナー最終日、金秀蓮さん(京都薬科大学1年)は、参加者全員の前で訴えた。
「大事なのは、差別が残る環境こそが変わるべきだと認識すること。自分にとって当たり前のことが、日本社会で当たり前に受け入れられるよう努めて行きたい」