のぞいてみました/祖国講師のウリマル講習オモニ向けコース
訪日した共和国の専門講師によるウリマル(朝鮮語)講習が参加者に好評だ。7月26日〜8月29日の約1ヵ月間、各地で開かれている同講習は昨年に続き2回目。今回は「話し言葉」をテーマに、◇朝鮮学校の教員向け◇日本学校に通う同胞青年に言葉を教える青年学校の指導員向け◇女性同盟のオモニ(母親)向け――など各種の講習が行われている。5日、神戸市の総聯兵庫県本部で開かれたオモニ向けの講習を覗いてみた。講習には、兵庫県下の25人が参加した。(東)
美しい言葉はコミュニケーションの潤滑剤
講師と参加者、「オモニ」同士の触れ合い
子供をあやす
オモニ向けの講習を担当するのは李春明講師、50歳。平壌演劇映画大学の俳優話術講座長だけあって、美しいウリマルを自在に操る「達人」だ。自らも働きながら3人の子供を育てあげた「オモニ」である。
まずは赤ちゃんをあやす言葉から始まった。手拍子を打ちながら「チャクチャクン、チャクチャクン」、首を左右に振りながら「トリドリ、トリドリ」、拳を開いたり握ったりしながら「チェムチェム、チェムチェム」…。聞き慣れない朝鮮のあやし言葉が続く。しかし、おしっこをさせる時の「シー」、排便の時の「ウーン」は、擬声語だけに日本と共通。ご飯の「マンマ」は完全に同じだ。
大きな身振り手振り、豊かな表情、ユーモア溢れる李講師の話しぶりに、会場は度々爆笑の渦に包まれる。体験談なども交えながら、和やかに講習は進む。
子育てという人間としての根源的な営みは、どこに住んでいても変わらない。それも、ウリマルが通じる同胞同士だからなおさらだ。そこには、講師と生徒ではなく、「オモニ」同士の触れ合いがあった。
夫との会話で
「これから家庭で夫と会話する際の言葉を習いますが、男尊女卑を押し付けるものではありません」
家庭と仕事を両立させるのはいまだ女性にとって簡単なことではない。若い世代は変わってきてはいるが、意識が低く、理解と協力が足りない夫も多い。「なぜ私だけが」と妻の側が不満を募らせるのは、共和国でも同じだという。
「家庭生活で女性の負担が大きいのは事実。でもこうした社会的な現状の下で、男性をただ責めるのではなく、日常の会話に相手を尊重し思いやる気持ちを込めていけば、互いに理解を深め、より豊かな家庭生活を送れると思います」
会話は円滑なコミュニケーションを支える。美しい言葉は生活の潤滑剤だ。
「頭にきていても一呼吸置く。主張を聞き入れてもらうには話し方も大切」
「分かっていても口に出して聞いてみる。分かっているだろうと思うことでも口に出して言ってみる」
なるほど…。しかし、「オモニは家族の心をつかみ、それを動かす芸術家にならなくては」と強調していたことが気になった。言葉の大切さは男性にとっても同じはず。女性だけ、オモニだけがいつも気を使わなくてはいけないとしたら、精神的な負担が大きくはないだろうか…。
講習終了後、疑問を正直にぶつけてみた。李講師は笑顔で「今回は女性同盟から依頼があったのでオモニ向けの講習を用意してきたけど、次はアボジ向けの講習があってもいいと思いますよ」と答えてくれた。
最初は「なぜ女性だけ?」という違和感から興味を持ったオモニ向けのウリマル講習だったが、日頃触れることの少ない共和国の子育てや夫婦、家庭生活の一端を垣間見れた意義深いひとときだった。同じ人間の生活なんだ、という当たり前のことを改めて感じるとともに、生活の中で「言葉」の持つ重みについて、深く考えさせられた。
参加者の声
もっと早く聞きたかった/大切なのは「伝えたい」気持ち/家に帰って早速実践
崔淑姫さん 最初の子が生まれた時、朝鮮式の子育てをしたいと思い、あやし方や子守歌など、本を探したりハルモニに話を聞いたりしたが、よく分からなかった。今日のような話をもっと早く聞きたかった。
金慶子さん 日本学校に通っていたのでウリマルは独学。今までは自信がなかったが、講習を受け、ウリマルを使ううえで言葉に対する知識や発音よりも、人に伝えたいという気持ちが大切だと感じた。これからはもっと自信を持ってウリマルを使いたい。
李康美さん とても楽しく、充実したひとときだった。一家団らんも言葉一つにかかっているのだと言葉の大切さを再認識した。円満な夫婦生活の秘訣も学べたような気がする。家に帰ったら、さっそく実践してみるつもりだ。