2000年代広い視野とビジョン必要
統計とアイデンティティは別

(洪敬義-在日本朝鮮人人権協会近畿地方本部副会長・事務局長、40歳


 ◇帰化者の増加◇

 国際結婚カップルの子の日本国籍選択――という2大要因により、本国籍(「朝鮮・韓国」)を持つ同胞の絶対数が減っているのは大きな流れだ。2大要因の前者である帰化者数は年間でざっと1万人、また後者の子供は大雑把に見積もると年間5000人。つまり年間1万5000人ずつ日本国籍を持つ同胞が増えている。

 若い世代の間で帰化に対する抵抗感が無くなってきているのは事実だ。動機としてはまず、アイデンティティ葛藤の末の逃避としての帰化。次に、国籍と民族はイコールではないという考え方(市民権的発想)の台頭があると思う。

 こう見ると、本国籍を持つ者の減少イコール「同胞消滅論」は極論だろう。統計上減ることと、アイデンティティが消滅することは分けて考える必要がある。

 ごく一部ながらも、帰化者、その子供、孫たちの間で、自分のルーツについてカミングアウトする人も出てきている。彼・彼女らは、「朝鮮人であること」について、これまでとは違う見方でとらえている。そうしたアイデンティティをすべて否定すべきではないだろう。

 重要なのは、今後、ホスト社会の日本がどう変化していくかだ。「内なる国際化」が進み、多様な人々が出自を明らかにしても排斥と不利益を受けない社会に成熟していくのかどうかしっかりと見据える視点を持つことだ。

 そんななかでまず、民族団体が国籍と民族を区別する同胞のことまで念頭に広い視野を持ち、具体的なビジョンを示す必要がある。同時に本国も海外同胞政策をきちんと打ち出すべきだ。この2つが揃って提示されれば、在日同胞の人口が統計上減ることがあっても、そのアイデンティティはしっかりと次世代に受け継がれて行くだろう。

 「本国籍を持つ同胞人口減=同胞消滅論」となるのかは、ここにかかっていると思う。政策展開や運動のやり方によっては、日本国籍者、ニューカマーまで含めた100万の運動になりうるのだ。

 同胞がアイデンティティを模索するうえで、ルーツを求める気持ちは普遍的なものだ。本国への留学や旅行熱はそれを示している。過去と違って組織が、現在の多様かつ複雑化した在日同胞社会の全般をリードすることは残念ながら困難な状況だが、フォローアップは十分可能だろう。

 一方で、国籍と民族はイコールではないという意識に基づく帰化には危うさを感じる。日本社会はまだまだそんなに甘くない。「日本国民」になる覚悟はあるのだろうか。国民国家の一員としての権利、義務についてもっと深く考えるべきだろう。

 また帰化という選択において、本当に自主性を行使していると言い切れるのだろうか。国籍と民族は違うというロジックを、口実として使っていないだろうか。もっと慎重に考える必要があるだろう。

 こうした意味でも、民族団体が提示できる情報、提供できる場はたくさんあるはずだ。