若手が描く同胞社会の未来形―今日のユメ、明日のチカラ
イメージは「自己実現」、「個性と調和」/時代と実力を貪欲に追う
「皆が『大変だ』と騒ぐのは、時代の流れに翻ろうされているから。明日の時代にユメを持てなければ、『大変』は終わらない」
関東地方在住のある朝銀職員(30)は、熱っぽくこう語った。
東京朝高を88年春に卒業、就職した。とくに目的意識があったわけではなかったが、何ごとにつけ燃える性格で、渉外の成績は常にトップクラス。顧客のニーズをつかんだサービスや、アフターケアの良さに定評があった。
「最初は成績を伸ばすことが楽しかった。でも、日々の同胞とのやりとりのなかで、この仕事は必要とされている、同胞社会の屋台骨を支えているんだという自負を持った」
だが、組合は咋年5月、経営が行き詰まり合併組合への事業譲渡が決まった。時まさに、金融機関と顧客の双方にとって厳しい「競争」「リスク」社会の到来を前にして、同胞社会は丸腰になる瀬戸際に立った。
得意先を回り、厳しい批判を浴びた。「大変な」時代を実感しつつ、「もう次はない」と自分に言い聞かせ、職場の後輩たちには、「新生朝銀」のユメを描けとハッパをかけた。
「明日のユメを描けるのは、われわれのほかにいないんです」
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朝青京都府右京支部の姜信好委員長(27)は最近、「今までは流れを変えようというスタンスが欠けていた」と考えている。
同胞社会は今、無情な時代の流れの渦中にある。
各地の朝青活動家たちは、日本学校に通う同胞青年らに民族について語りかけ、彼らの心をつかもうとしてきた。しかし全体としては、同胞青年が民族を遠ざけ、民族の国籍を捨てる傾向は強まる一方だ。
「個別の努力だけでなく、流れを民族に引き寄せるアクションが必要な時だ」(姜委員長)。
朝青京都府本部の李武律委員長(30)は、府下の南北、中立の在日青年5団体合同のワンコリア・イベントを実現させようと奔走している。「それぞれの団体が拡大を図るだけでは、今の流れを変えられない。ハコものづくりの発想を転換して、同胞なら誰もが上がれる舞台を作るべき」との考えからだ。
その「舞台」のイメージは、朝鮮民族独特の色彩美「セクトン」につながる。互いに飲み込まず、打ち消さず、個性と個性が調和する世界だ。実現は容易ではない。「それでも、朝鮮民族の未来はどんなものかを、皆にはっきりと見せてやりたい」(李委員長)。
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在日本朝鮮人人権協会の事務局員、金珍英さん(27)は、「対症療法が意味を無くしている」と感じている。
例えば若者の民族離れについて、「差別に苦しんで帰化した時代とは違い、今は民族が相対化されてる。若者は自らの価値観にプラスかマイナスかを基準にして、選択を行っている」と見る。
差別とたたかい、同胞の生活を守る――。人権協会をはじめ、民族団体に課せられた使命だが、実績を重ねるほどに自らの存在意義は相対化される。日本政府の過去清算など本質的な課題は残るが、それも日程に上りそうだ。
差別があるからたたかうという図式は、意義が薄くなって行く。とすれば、同胞有資格者のネットワーク、組織の「機能」も意味が無くなっていくのか。
「差別に打ち勝ってきたことで、同胞は何かを失うわけではなく、新しいステージに進めるんです。組織の意識も機能も、対症療法型から目的達成型に変換すればいい」
こう語る金さんが描く同胞社会の未来形は、それぞれのユメを実現するために互いの力を活用し合う「自己実現ネットワーク」だ。
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「金融機関が融資先を選別する基準は」「会計基準が変わる影響は」――。
昨年12月のある夜、在日本朝鮮人商工連合会に務める李宗和さん(28)は、大手金融機関の支店長に矢継ぎ早に質問を浴びせた。金融ビッグバンが中小企業の資金繰りに与える影響を知ろうと、知り合いの経営コンサルタントに頼み込んで紹介を受けた。
この少し前、上野の朝鮮商工会館に、商工連と関東および周辺の商工会から、10代と20代の活動家、約70人が集合。「商工会と自分」についてのシンポジウムを行った。
「商工会の活動家であることの意味は」「自分に今、何ができるのか」。そんな議論が行き交うなか、李さんはこう発言した。
「同胞企業が時代の先を行く企業になれるようサポートしたい。同胞商工人とともに切磋琢磨(せっさたくま)して大きくなりたい」
高い目標だが、李さんは少しずつでも実現に近付けたいと思っている。97年、商工会の活動家として初めて中小企業診断士の資格を取得。飲食業者セミナーの企画など普段の仕事のなかでも、「目標」を意識している。
無論、道程はまだまだ遠い。ある地域商工会で中小企業金融に関して講演したところ、参加者から「それくらいのことは皆、知っているよ」と言われた。金融機関の支店長と会ったのは、その後のことだ。
「実力の向上と時代の流れをつかむことには意欲を燃やし続けたい。そうしてこそ、厳しい現実のなかにある同胞商工人たちと、歩みをともにできると思う」
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朝・日輸出入商社に務める李達英さん(24)は、法政大学の科目履修生として、毎週月曜日の夜、国際経済論とマーケティングの講義を受けている。仕事の内容が、世界の政治経済動向に関する情報・資料の収集であることから、役立つ知識を身に付けようと思ったのがきっかけだ。
しかし、仕事と勉強、さらには地域の朝青活動で感じたものが、頭のなかで交差することがある。
「在日同胞も世界の潮流を泳ぐダイナミズムを持てないだろうか」「発想が小さいのか。芽を育てる力がないのか」など。
話して見ると、周りの仲間のなかにも色々な発想がある。閉塞感に抗う、力強い意見がある。
そんなことを考えていた時、ナレッジマネジメントという企業の経営手法があることを知った。直訳すれば知識経営。社員が日々の仕事のなかで得た「気づき」を生かして事業の新展開を図るもので、先進企業が導入して成果を上げている。
李さんは当面、これを仲間内で勉強したいと思っている。
「1世は、『これをやらねば』という思いを糧に、体当たりで多くを築いた。それをシステム化したらどうなるか、興味があるんです」
「変えるなら今」の思い
岐路にあると言われる在日同胞社会。そこをフィールドに働く若手専従に、それぞれの思いを聞いて歩いた。厳しい現状認識、時代の流れの読み、将来のユメのイメージとそれを実現させる力への渇望…。言葉には、「変えるなら今」という「気づき」が溢れていた。この「気づき」の芽をプランに練り上げ、現実のなかで鍛え上げ、力を蓄え、スケジュールを刻み、着実に進む。その歩みこそが、明日の同胞社会にチカラをもたらすと確信した。 (金賢記者)