どうなる2000年経済
ようやく景気の谷を脱したとの観測が出てきた日本経済――。バブルの後始末に明け暮れた90年代は、「失われた10年」と言われるが、果たして2000年は経済新生の第一歩となるのだろうか。経済企画庁の99年版「経済の回顧と課題」(ミニ白書)、日本経済新聞社の2000年版「日経大予測」などを参考にまとめて見た。
現状 |
デフレ循環回避か/見えて来た景気回復
安どの空気
昨年12月8日、都内のホテルで行われた日本経済新聞社と日本経済研究センター主催の「年末エコノミスト懇親会」では、挨拶にたった主催者、来賓はそろって今年のプラス成長を予測。経済企画庁の堺屋太一長官も「またエコノミストの時代がやって来ました」と、胸を張った。
日本経済に関する最近の論調は、一様に安どの空気に覆われている。
それもそのはず、97年と98年に続いて、またもやマイナスが予測されていた昨年の経済成長は、1―3月と4―6月の2期連続でプラスに転じた。昨春の時点で5%に迫った完全失業率が、年末には4,5%まで回復し、一時は1万円割れも必至と言われた日経平均株価は、今年初めには2年4ヵ月ぶりに1万9000円台に上げた。
物価の下落が生産・消費の低下を生み、さらに物価下落を招く経済収縮の悪循環「デフレ・スパイラル」がすんでの所で回避されたと言える。
大企業に比べ景況感の回復が遅い地方の中堅・中小企業も、多くが来年中の景気回復を見込んでいる(日本経済新聞社調べ)。
リストラ, ITが軸
景気下げ止まりの要因は、金融不安の後退や財政・金融政策のテコ入れのほかに、いくつか指摘されている。
1つが、提携・合併も含む企業のリストラ効果だ。
日経大予測によると、全国上場企業の2000年3月期の業績予想(単独ベース)は、前年同期に比べて売上高が2%ほど減りそうなのに対し、経常利益はリストラ効果が表れて、3期ぶりに増益(12%)の見通しとなっている。
ただ、副作用も大きい。ミニ白書は、大企業41社だけでも今後、計14万人の雇用調整を予定している例を挙げ、「雇用なき回復」に警鐘を鳴らしている。
そこで、民間需要の活性材料として期待感の大きいのがIT(情報技術)関連の投資だ。
日本は昨年がEC(電子商取引)元年と言われる。商品の販売や証券取引仲介サービスなど、インターネットを利用したビジネスが本格化し、今後もさらなる拡大が見込まれている。
情報関連企業の株価は、ゼロ金利政策の効果と相まってうなぎ登りに上昇。初期投資が比較的少なくて済むことなどから、ネット関連企業がベンチャーブームの先兵にもなっている。
展望 |
当面は淘汰・競争本格化/個人消費にけん引期待
「不安」解消がカギ
公共投資で景気を下支えしながら民間需要の力の回復を待ち、官需からのバトンタッチを図る――日本政府の当面の政策はこうだ。しかし、これがうまく行っても、目の前に現れるのは以前と同じ設備投資主導の経済成長ではない。
ミニ白書は、期待成長率が低下し、企業がリストラを進める中にあっては、GDP(国内総生産)に占める設備投資の比率は低下していく可能性が大きいと予測した。
そして、それに替わる今後の経済のけん引役は個人消費だと明確に指摘。景気との連動性が強まっていることから、消費を喚起することで、景気浮揚の先導役になり得るとしている。
ただ、肝心の個人消費も、簡単には上向くとは思われないのが現状だ。
重しになっているのは、消費者が抱く「雇用」「所得」「将来」への不安だ。
中でも最も重視されているのは、介護保険、年金など「将来」の負担に対する不安で、年金改革や財政再建など、これを取り除く有効な施策が望まれているが、具体的なものは今だ示されていない。
失業率はアップ?
結論的には、民間需要と個人消費の本格的な回復はまだ先と言える。しかし、経済の構造的な転換点にあって、いずれは皆で再び成長を謳歌できるという訳でもなさそうだ。
例えば、現在の景気回復を下支えしている公共事業。2000年度も昨年と同じく積極型予算となりそうだが、日本の財政事情は国と地方を合わせた債務残高が600兆円で年間GDPの1,2倍。先進国で最悪の状態にある。
深刻な財政難の中で従来型の予算バラマキに対する批判が強まっており、日本政府は99年度中に19のダム建設を中止・休止する予定だ。景気が回復に向かえば一層の圧縮が進む。バブル期の負の遺産に苦しむゼネコンを筆頭に、建設業界は本格的な「淘汰」の時代を迎えそうだ。
個人消費も、生活の基礎的な部分が満たされて来たために、「本当に欲しいもの」だけを買う「選択的消費」への質的移行が指摘されている。これだと、景況感の改善が消費の伸びにつながるとは限らない。
小売りや外食は、総じて飽和、過当競争が指摘されているが、大手の出店攻勢はなおも続く。ネットを利用したサービスという新手のライバルも出現し、体力の弱い既存企業は苦戦が続くと見られる。
経済成長率、日経平均株価は比較的楽観視されているのに比べ、完全失業率は今後も上昇が予想されている。庶民の暮らしは、お寒い状況が続きそうだ。
情報、環境、福祉などの新たな成長分野や、本物志向の個人消費というターゲットは示されてはいるが、経済がそれらをベースにした形に速やかに移行できるかどうかが、岐路になるかもしれない。
(金賢記者)