朝鮮料理に秘められた効用(1)
薬膳&キムチ


身体に良い食材と料理法
栄養豊富、世界に誇れる漬け物

 「食は人類最高の文化のひとつ」と言われる。常々、朝鮮料理や朝鮮の食材と健康について語ってきた恵クリニックの韓啓司院長に「朝鮮料理に秘められた効用」について、今回から5回にわたって解説して貰う(本紙編集部)。 

ハン・ゲサ 1940年東京生まれ。昭和大学医学部を経て同大学院卒。医学博士、免疫学専攻。81年、東京都豊島区に「恵クリニック」開業。昭和大学腎臓内科兼任講師も勤める。在日本朝鮮人医学協会東日本本部顧問(TEL  03・3816・0871)。

旬のものを食す

 中国では3000年前から食べ物が人間の健康を高め、病気を治すという考えがある。日々食べる料理でさえも、体に良いものを食べるという考えで、それが薬膳という考え方だ。体に良い食材、体に良い料理法を組み合わせたのが薬膳料理だ。

 私は当初、中国の漢方、薬膳料理が朝鮮を経て、日本に伝来してきたと考えていた。

 しかし、キムチが健康にどういう効用があるのかなどと朝鮮料理の勉強を始めると、中国からの影響とは関係なく朝鮮料理そのものが薬膳料理ではないのかと思うようになった。

 薬膳料理で一番大切なことは、何を食べるかということではなくて、旬のものを食べるということである。すなわち、その食べ物が一番元気な時に食べることだ。

 朝鮮料理はまさに旬そのものだ。山菜を採ってきてナムルにして食べる。食べ切れないものはキムチにして食べる。素材の新鮮さを、いかに旨く食べるか、良く保存するかという考え方だ。

 肉の食べ方も旬だ。朝鮮料理の焼肉は、食べる直前に肉を切り、ヤンニョン(薬念)して食べる。非常に科学的で、合理的だ。肉は少しでも空気に触れて古くなると、肉の中にある脂肪が酸化して過酸化脂質になる。これは体に悪いと最近の医学で指摘されている。

 朝鮮人は焼肉をサンチュに包んで食べる。肉のこげにはニトロソアミンという発ガン性物質が含まれる。しかしニトロソアミンは野菜の汁をかけると、たちどころにその毒性を失ってしまう。朝鮮人は無意識のうちに分かっていて、解毒のため焼肉を野菜にくるんで食べている。非常に理に適った食べ方、調理法、組み合わせをしている。


素晴らしい食文化

 朝鮮では秋にとれた白菜を11、12月に漬ける。白菜は体を温める野菜でビタミンCが豊富だ。ビタミンCは免疫力、自然治癒力、健康維持に必要なビタミンだ。朝鮮では冬、新鮮な野菜はほとんど採れないので、キムチでビタミンCを補給してきた。

 しかしビタミンCは非常に破壊されやすい。これを防ぐのがニンニクと唐辛子だ。ニンニクにはビタミンCの破壊を防ぐ保護作用がある。唐辛子の粉にはビタミンAとCが含まれる。

 この2つが入ることによって、キムチは3月までビタミンCを増やし続け、栄養分を保存し、腐ることがない。

 キムチに塩辛を入れることによって、細胞の代謝に必要なアミノ酸も豊富になる。またリンゴを入れるとリンゴ酸、クエン酸などの有機酸が非常に豊富になる。

 キムチはまたアルカリ性で血液が酸性になるのを防ぎ疲労回復にもよい。

 野菜は繊維が多く整腸作用があり、便秘の改善、大腸ガンの予防にもなる。キムチは漬けたもの丸ごと汁まで食べてしまう。キムチ全体が栄養の固まりということだ。奈良漬けもザーサイもピクルスも、漬けたものを洗って実だけを食べる。

 このようにキムチは、世界の漬物の中でもっとも栄養が豊富で健康によい食べ物といえる。

 在日同胞3、4、5世はキムチを食べなくなってきているという。逆に日本人で食べる人は増えている。日本政府もキムチを日本のお新香として認めようとする時代だ。

 キムチという素晴らしい食文化を知ることにより、若い人たちが自国の文化、歴史、科学、芸術についてももっと理解するきっかけになればと思う。
(次回は食材(1)ニンニク&唐辛子)