女のCINEMA/「母の眠り」 


現代人救う家族の愛

 不治の病に冒された家族の介護を機に、家族のあり方、生き方を問うこんにち的テーマが基底となって、競争に疲れ、傷ついた現代人を救う家族の愛がテーマの米国映画。

 末期ガンの母は平凡な主婦。小説家で高名な大学教授の夫を支え、地域の人たちとの交流もあつく、その家庭は温もりに満ちている。

 競争心の強い娘は、常に父親の賞賛のみを気にかけてきたハーバード出の才媛。ニューヨークで大手雑誌の特ダネ記者をしている。

 こんな対照的な母娘が、闘病と看病によって、初めて向き合う濃密な時間がもたらされる。

 娘にとって際限ない家事と看病に明け暮れる毎日は苦痛そのもの。悪化の一途を辿る母の病状と相まって神経はささくれ立つ。

 自分1人に看病を押しつけた父への疑念、反発が募る。父もまた母を喪う不安におののいていたのであるが。

 父娘の反発が頂点に達しそうになったある日、深い危惧心を抱いた母が初めて激しい口調で娘を諭す。

 「幸せになるのは簡単よ。無いものねだりは止めて、今あるものを精いっぱい愛することよ。豊かな心で」

 「幸せ」とは競争に勝つことでも上っ面を愛することでもない。成熟した人間として人を愛すること、本当の愛の意味を知ることだと。

 平凡だと思っていた母こそ非凡で最も強い人だった。病にあってさえ他人を思いやり、父の弱さも知り過ちも許し大きく包み込む。何より、自らの尊厳と家族への愛のために見せた勇気ある決断のできる人だった。

 世界には多様な民族や共同体がある。その分だけ家族の姿も異なる。

 しかし、この映画から、米国であれ、朝鮮であれ、家族の「幸せ」への願いは同じだと、ふと気づかされる。カール・フランクリン監督。2時間8分。(鈴)