私の会った人/安江良介さん 


 1昨年1月、岩波書店前社長の安江良介さんは、62歳という短い生涯を閉じた。生前、日本の政治、教育、外交、ジャーナリズム批評などジャーナリストとして様々な問題と格闘し続けた氏の「不在」を惜しむ声は未だに強い。

 安江さんが、生涯もっとも情熱を注いだテーマが、朝鮮問題だった。生前、安江さんから手紙をいくつか貰ったことがある。そこには、日本の侵略を受けながらも、民族自主精神を貫き激しく戦い続けた朝鮮民族、差別と迫害の中で闘う在日同胞への敬意と愛情が綴られていた。「朝鮮のことを忘れたことがない」と書かれた心情あふれる言葉は、困難にぶつかる度に私を励ましてくれる。

 日朝両民族の「和解」を、氏は終生願って、発言し、行動した。「(日本が)自らの歴史の過ちを克服し、過ちによって苦痛と屈辱を与えた人々に謝罪するのは、自らの内面に正義を回復したいという願いからであって、自分自身のためである」と。

 だからこそ、氏は雑誌「世界」編集長として、何度も金日成主席と会い、朝鮮民主主義人民共和国の立場をまず正しく、日本の中に知らせることに腐心した。そして、日朝国交正常化を求め、在日朝鮮人の民族権利を守るために力を尽くしたのだ。弱い立場の人を助け、共に苦しみを分かち、涙する人間性が、すべての行動の原点にあった。

 情熱・責任感・決断力。これが「現実と格闘する」要諦だとする氏の言葉は、今もズシリと心に響く。(粉)