そこが知りたいQ&A/朝・伊が国交樹立したが
朝鮮の積極外交が実を結ぶ
70年代後半から交流、欧州諸国へ波及も
Q 朝鮮とイタリアが国交を結びましたが。
A 国連食糧農業機関(FAO、本部ローマ)駐在朝鮮代表部代表とイタリアのディーニ外相が4日、ローマのイタリア外務省庁舎で、大使級外交関係樹立に関する文書に調印しました。両国は昨年9月末に開かれた第54回国連総会の際に開いた外相会談で、すでに国交樹立に合意していたといいます。
これで朝鮮と国交を結んでいる国は139ヵ国(朝鮮通信社調べ)になりました。またEU(欧州連合)加盟国のうちではスウェーデン、フィンランド、ポルトガル、デンマーク、オーストリアに続いて6ヵ国目となります。
一方、イタリアは、G7(主要7ヵ国)の中で初めて朝鮮と国交を結んだことになります。朝鮮は、イタリアがこれまで国交を持っていなかった唯一の国連加盟国です。イタリアのディーニ外相は調印の際、「両国が外交関係を結べない理由は何もない」と述べました。
Q 国交樹立までの経緯は?
A 朝鮮は昨年1999年、精力的な外交活動を展開しました。
一貫して最優先的に進めてきた対米関係改善はもちろん、日本とも国交正常化交渉再開へ動き出すなど、大きな進展がありました。なかでも注目されたのがEU諸国との外交でした。朝鮮は、EUと98年から政治対話を続けています。
98年に就任した白南淳外相は昨年9月、ニューヨークで行われた第54回国連総会で朝鮮の外相としては7年ぶりに演説しました。さらに異例とも言える外国記者団との会見をこなし、EU議長国のフィンランドをはじめイタリア、デンマーク、オーストラリアなど20余ヵ国の外相らと会談しました。その席で、イタリアとは国交樹立の合意に至ったわけです。
朝鮮外務省スポークスマンは9日、朝鮮中央通信社の質問に対し、「これは両国の主体的な意思によるもので、自主的な対外政策の結果である。自主、平和、親善の崇高な理念に沿って、わが国の自主権を尊重し友好的な態度を取るすべての国と友好協力関係を結び発展させることは、わが国政府の一貫した立場である。われわれはこれまで、イタリアをはじめ西側諸国とも善隣友好関係を結び発展させるため努力してきた」と述べています。
Q 朝鮮が昨年、積極外交を展開したのはなぜですか?
A そもそも80年代末〜90年代初の社会主義諸国の崩壊以降、資本主義諸国との関係改善は朝鮮の大きな外交課題でした。ただ94年の金日成主席の逝去後、たび重なる自然災害による経済難も降りかかり、そのための条件が整いませんでした。
しかし98年9月の最高人民会議第10期第1回会議では、金正日総書記が国家の最高職責である国防委員長に就任し、憲法を改正して機構を一部改編するなど、国家体制の整備が行われました。
もちろん、外相を含め人事の刷新も行われました。これでやっと条件、準備が整ったのです。
Q イタリア側の事情は?
A イタリアはこれまでも、「大国の1つとして、国際社会で平和実現のために役割を果たす」(政治評論家のセルジオ・ロマーノ氏、朝日新聞6日付)という方針の下、中東やアフリカ、旧東欧などで対話を軸とする独自の外交を展開しています。EUのビッグ3(イギリス、フランス、ドイツ)とは違ったアプローチにより、国際社会での存在感をアピールしようというものです。
こうした独自の外交スタイルを取るイタリアと、朝鮮の利害が一致したとみていいでしょう。
カルト・トレッツァ駐南朝鮮イタリア大使は、朝鮮との国交樹立はあらゆる国連加盟国と国交を結ぶという同国の政策に基づいていると指摘し、「(国交樹立によって)われわれは朝鮮とのよりよい接触を持つだろう。われわれは主要な国際問題、とくに国際安全保障、核拡散防止、人権についてのもっとも根本的な諸問題に関して、一般にヨーロッパや西側諸国の立場がどういうものかを朝鮮当局によりよく伝えることができるだろう」と語っています。
さらに背景として、昨年9月の朝米ベルリン合意も無視できません。米国、日本、南朝鮮当局も今回の国交樹立を歓迎しています。
Q 両国のこれまでの関係は?
A イタリアは伝統的に左派が強く、朝鮮とも長年、比較的良好な関係を保ってきました。98年に成立した現ダレーマ政権も、旧共産党の左翼民主党などが中心となった中道左派連合政権です。
両国は77年7月に貿易代表部相互設置に関する協定を締結し、88年6月には平安南道安州市とサン・ジョルジョ・ア・クレマノ市が姉妹都市関係を結んでいます。
92年11月には駐中イタリア大使一行が訪朝したこともあります。80年代には自動車製造で有名なフィアット社代表の訪朝も伝えられました。朝鮮側も、執権党の朝鮮労働党や国会にあたる最高人民会議の代表団がたびたびイタリアを訪れています。
また95年、朝鮮の深刻な水害状況が初めて世界に伝えられると、イタリアはすぐに15億リラ(80万3000ドル=約8470万円)相当の食糧援助を行いました。国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)の本部がローマにあることも、イタリア政府の素早い対応に影響したと言えます。
Q 今後の展望は?
A 朝鮮外務省スポークスマンは「両国は今後、相互尊重と平等、互恵の原則に基づいて政治、経済、文化の各分野にわたり友好協力関係を幅広く拡大発展させるであろう」と指摘し、イタリアのディーニ外相は「両国間に外交関係が結ばれたことで、経済と貿易、文化交流と協力、政治対話の道が開かれた」と語りました。今後、一般的に考えられるスケジュールとして、最恵国待遇の設定(貿易関税の特恵措置)、人的物的交流に関する様々な協定の調印、各分野での交流などが進められて行くでしょう。
また他の欧州諸国がイタリアの先例に従う可能性について、トレッツァ駐南朝鮮イタリア大使は各国の国家主権の問題だと指摘しながらも、「しかし、そうなるだろうと思うし、また期待している」と話しています。インパクトは決して小さくないでしょう。
朝鮮はイタリアに続き、オーストラリア、フィリピン、カナダなどと国交樹立を目指して関係改善を急いでいます。オーストラリアとは、2月にも訪朝する局長級の代表団と平壌で国交正常化交渉を行う予定です。フィリピンには上院議長の訪朝を要請中で、カナダの当局者も近く訪朝すると報じられています。