春夏秋冬


 「300円で葬式ができますか」――。仮設住宅に住んでいた94歳の老婆から入院する直前、預金通帳と印鑑を渡されて、自分にもしものことがあれば、これで宜しくと頼まれたと、同じ仮設住宅に住んでいたボランティアの男性が語っていた。阪神大震災から5年、某テレビ局ニュース番組の特集でのことだ。男性は、その通帳に300円しか残っていなかった事実を伝えながら、先進国、経済大国と言われる日本の現状を憂えていた

▼本紙の記事(12月17日付)「同胞による同胞のための福祉施設を 神戸在住の1級身体障害者、朴且介さん」を読んだ朝鮮大学生が、同胞障害者、高齢者のことをもっと知りたいと昨年末、朴さん本人を訪ね、彼に勧められて今年初めには多数の同級生と一緒に大阪の老人福祉施設で体験ボランティアをし、再び朴さん宅を訪れた

▼「(施設にいる)老人の子どもたちは何をしているんだろう」というのが、朝大生の感想だったという。本人たちが堅く口を噤(つぐ)んでいたのを、朴さんが執ように問いただして聞き出したのだから偽りのない気持ちなのだろう

▼痴呆症、寝たきり老人を、仕事を持つ普通人が介護するには、筆舌に尽くせぬ困難があると聞く。広い家に住み、金銭的に余裕があれば、寝たきりになっても介護することは可能だが、ほとんどの家庭では寝たきり老人の世話を24時間、行うのは現実的には無理だと言える

▼朝大生の素直な感想には、現実的に困難かもしれないが、どんなことがあっても親の面倒を見るという気持ちだけは持ち続けようとする心意気が感じられた。   (元)