趙明禄第1副委員長の訪米と意義
関係改善への重要な契機
金正日総書記の特使として朝鮮国防委員会第1副委員長で朝鮮人民軍総政治局長の趙明禄次帥が、九日から訪米し、クリントン米大統領、オルブライト米国務長官とそれぞれ会談する。これについて平壌9月30日発の朝鮮中央通信は、朝米関係発展に寄与する重要な契機になるであろう、と指摘しており、趙第1副委員長の訪米を機に、朝米は国交樹立に向けた大きな1歩を歩みだすものと思われる。いくつかの懸案別に今回の特使派遣の意義を探ってみた。 地位 金正日総書記が米国に特使を派遣する考えを明らかにしたのは、今年6月30日の在米僑胞ジャーナリスト文明子氏との会見でだ。朝米関係の展望に対する質問に総書記は、「米国からペリーが特使として来たので、われわれがボールを投げる番になりました。すぐに高位級の特使を派遣するでしょう」と答えている。 クリントン政権が98年11月にウィリアム・ペリー元国防長官を朝鮮政策調整官に任命したのは、対朝鮮政策を包括的に推進するとともに、議会との摩擦を最小限に抑えることが狙いだったと言われている。 ペリー調整官は昨年5月に朝鮮を訪問し、金正日総書記にクリントン大統領の親書を伝えたほか、金永南最高人民会議常設委員会委員長、白南淳外相、姜錫柱外務省第1副相とも会見している。 また昨年9月には、朝鮮が崩壊しないとの認識のもとに、ミサイル問題と対朝鮮経済制裁の解除をリンクさせることなどを内容とする報告書を作成、発表した。同報告書は一部のみ公開されただけで、全容は明らかになっていない。 現在、朝鮮政策調整官にはウェンディー・シャーマン国務省諮問官がペリーの後任として就任したといわれている。 今回の趙明禄第1副委員長の訪米は、こうした米国のアプローチに対する返答という形で、当然、金正日総書記のクリントン大統領への親書も携えて行くだろう。 ちなみに趙明禄第1副委員長は、朝鮮では序列の第3位におり、金正日総書記主催の金大中大統領歓送宴で演説し、南北共同宣言の全面的な支持を表明した。 なお、98年9月に改正された社会主義憲法によると、国防委員会は最高人民会議常任委員会よりも上位に位置付けられており、@国家の全般的武力と国防建設事業を指導するA国防部門の中央機関を設置と廃止などの任務と権限を与えられており、同委第1副委員長のポストには、かつて金正日総書記が就いていた。
議題 金正日総書記は8月、南朝鮮言論社社長一行との会見で、朝米修交問題について「米国がテロ国家のベールをわれわれに被せているが、これだけ外せばすぐにでも修交します」と明らかにした。 また人工衛星ロケットの開発については「ロケットを開発して大陸間弾道ミサイルを作り、2、3発を持って米国を攻撃すれば、われわれが米国に勝てますか? にもかかわらず米国は、この問題で難癖を付けています」と述べている。 一方、米国は、「テロ支援国規定」による制裁措置解除の条件として、表面的には「よど号ハイジャック事件」犯人の送還、テロ支援を行わないという保証(声明などで)などを提示しているが、ペリー報告書で示されたようにミサイル問題とリンクさせている。 朝鮮に対する米国の制裁措置は、「敵国通商法」と「テロ支援国規定」に基づく2つがあり、前者は昨年9月にクリントン大統領が解除を発表し、今年6月に施行されている。 ミサイル問題について朝鮮側は従来、開発、配備に関しては国家の自主権にかかわる問題なので譲歩できないが、輸出に関しては補償があれば中止することができるとの立場を表明していたが、プーチン・ロシア大統領との会談で金正日総書記は、米国が代わりに人工衛星を打ち上げてくれるのなら、開発を行わないと明らかにしている。 したがって趙明禄第一副委員長の訪米では、「テロ支援国規定」による制裁措置の解除をはじめ、ミサイル問題、平和協定締結問題などが包括的に話し合われると思われる。
展望 趙明禄特使の訪米は、ニューヨークで、金桂寛外務省副相とカートマン朝鮮半島平和担当特使との朝米次官級会談(9月27日〜10月2日)が行われている最中に発表された。これは、特使派遣問題が次官級会談の重要な議題であったことを物語る。 次官級会談で双方は、「一定の成果」(朝鮮側)「相当な進展」(米側)があったとして会談結果に満足の意を表明した。また具体的な成果については、後に判明するだろうと語っており、趙明禄特使の訪米の際に、その発表があることを示唆している。 つまり、今回の次官級会談を通して趙明禄特使訪米の整地作業が終わり、具体的な合意内容についても双方がほぼ意見の一致を見たと考えられるのだ。 94年の朝米基本合意文では、核問題と同時に朝米修交問題がうたわれている。核問題が軌道に乗った状況で、クリントン政権に残された課題は、朝鮮との国交樹立ということになり、そういう意味でも趙明禄特使の訪米は、朝米関係において画期的な出来事になるだろう。 7月末の白南淳外相との会談で、オルブライト長官が金正日総書記を招待したという情報もあり、趙第1副委員長の訪米結果いかんによっては、クリントン大統領の在任中に金正日総書記が訪米する可能性もある。(元英哲記者) |