20代・女性記者が見た「南北」、「日朝」

熱く抱きあう母娘

離別の「恨」洗い流す涙の海

金潤順


 先日シドニーオリンピックの開会式で、白地に境界線のない朝鮮半島を青く染め抜いた「統一旗」を高々と掲げ、約180人の南北朝鮮の選手たちが同じユニホームを着て入場行進を行った。選手たちが取り合った手をスタンドに向けて高くあげると、総立ちの観衆からは大声援が送られた。

 よろこびに満ちた笑顔。選手たちはもちろん、テレビの画面に釘付けになっていた同胞の顔もほころんでいたのではないだろうか。翌日の朝刊を見ながらつくづく、1つになることは良いことなのだなあと思った。

 今年の夏、私は月間「セセデ」の取材で平壌を訪れ、南北離散家族の再会を目の当たりにした。国土分断以降半世紀ぶりに再会する家族たちは、熱い抱擁を交わし、顔中が涙でグショグショになるほど泣きながら、何度もお互いを呼び合っていた。現場はまさしく「涙の海」。そんな中、私は南北の記者たちの間をくぐりぬけながら、涙をこらえて写真の撮影をしていた。

 黄海北道在住のリ・ヨンウォルさん(56)はこの日、母親のキム・ジャンニョさん(79)と53年ぶりの再会を果たした。

 ヨンウォルさんがまだ4歳だった1947年。両親は貧しい暮らしを立て直すため、7歳になる兄とヨンウォルさんを祖父母に預け、仕事を探しに出かけた。まさかその別れが半世紀もの間、親子を引き裂くことになろうとは誰が想像しただろうか。

 1950年には朝鮮戦争が勃発。頼りの祖父母は亡くなり、兄までもが防空壕の中で病におかされ息を引き取った。その後ヨンウォルさんは叔父に引き取られたが、叔父も58年には他界。その後は国の恩恵のもと、学校に通い、今となっては2男2女の母に、かわいい孫を持つお祖母さんになった。

 幼い頃から離れ離れになった母親を1時も忘れることが出来なかったヨンウォルさん。彼女はこの53年間、母親を思い焦がれながら日々の生活を送ってきた。

  今年6月の歴史的な南北首脳会談と南北共同宣言は、統一を今か今かと待ち望む朝鮮民族の心に希望の光を灯した。

 その直後、南では母親であるキム・ジャンニョさんの訪北申請が行われていた。手続きに駆けつけたのは、別れた当時1歳だったヨンウォルさんの実弟。母の強い願いがかなってか、ジャンニョさんは選ばれた日、嬉しさのあまり、一睡も眠ることが出来なかった。

 一方、娘のヨンウォルさんは、歴史的な南北共同宣言の発表をよろこびながらも、「オモニも歳だし、戦争もあったし、もう二度と『オモニ』と呼ぶことは出来ないだろう…」と半ばあきらめていたそうで、連絡をうけたときはまさに「夢のようだった」とその心境を語った。

 日本の植民地統治による貧困と貧しさゆえの離別。そしてその別れを長引かせる要因となった戦争は母娘に苦渋の日々を与えた。再会の瞬間、半世紀に及ぶ離別の「恨」を洗い流すかのように2人の目からはとめどなく涙が流れ出た。

 「娘に会えて本当に幸せです。もう、いつ死んでも悔いはありません」との母の言葉を撤回するかのように、娘は「オモニ、あと10年は長生きしてよ。10年のうちにきっと統一は成し遂げられるわ。兄が死んで、みんな死んで、私は一人ぼっちだと思っていたのに… オモニに会って、弟がいることがわかったの。オモニが死んだら、私は弟の顔も分からない…」と言った。

 この日ジャンニョさんは娘に、自分が着たチマ・チョゴリをプレゼントした。夜、ヨンウォルさんを訪ねてみると、「丈はちょうど良いのに胸が少し大きいみたい。体の大きさは同じなのにオモニの方がグラマーなのね。今から脇を詰めなくっちゃ」と、とても嬉しそうにしていた。

 翌8月18日、高麗ホテルのロビーにはオモニがくれたチマ・チョゴリを身にまとったヨンウォルさん(写真左)の姿があった。片時も離れず、終始寄り添うようにしている2人の姿に胸を打たれた。

 南北1000万と言われる離散家族の親族訪問が、在日同胞のそれと等しくなる日もそう遠くはないだろう。会いたい人がいて、会わなくてはならない人々が生きているうちに、統一は必ず実現されなければならないと思う。

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 9月22日には総聯の同胞たちの故郷訪問が実現した。京義線が復旧され、金正日国防委員長が近い時期にソウルを訪問することが予定されている。

 20世紀は朝鮮民族にとって、まさに苦難の日々であった。しかし、その苦難を乗り越えて朝鮮民族は今、大国の手で粉々にされた民族の器を自らの力と愛で1つにしようと励んでいる。

 しわだらけのハラボジ、ハルモニたちの顔に笑みがあふれ、アボジ、オモニの顔にも、未来を担うセセデたちの顔にも笑みがあふれる統一の日が早く来ることを望みたい。1つの民族の涙と笑みに境界線を引くことなど誰にだって出来はしない。(「セセデ」記者

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