個展の初日、帰らぬ人に
中村百合子さんを悼む

世界駆け巡った行動派画家


 こんな悲しいことがあるだろうか。長年、アラブやシルクロードを回る行動派画家として知られていた中村百合子さんが東京での91回目の個展のオープニング当日の9月25日、虚血性心疾患のため帰らぬ人となった。享年67歳。

 中村さんは尼崎市生まれ。15歳で行動美術展に入選。当時新聞記者だった司馬遼太郎から「天才画家の出現」と紹介された。大学では洋画家専攻と同時に中国語も学ぶ。卒業後、教職に就くが、砂漠への夢は捨て難く35歳で「狭い日本列島を飛び出した」。パリ、ロンドン、ローマなどに15年滞在。その後エジプトやアラブなど主にアラブ諸国を旅し、「砂」をテーマにした作品3000点以上を描いた。リビアのカダフィ大佐、イラクのフセイン大統領らとも知己を結んだ。

 欧州、アフリカ、中東、インド、中国、朝鮮という西から東への約30年に及ぶ50ヵ国以上の国々への旅の足跡をまとめた画業は「シルクロード・天竺への道」「アラブの世界」などの画集に結実した。

 こうした旅の延長線上にあったのが、1991年の朝鮮民主主義人民共和国へのスケッチ旅行であった。中村さんは当時こう語っていた。「私の朝鮮への旅は長年の旅の1つの到達点でもありました。アリランを歌って、オンドルに寝そべって、その1つひとつに深い味わいがあった」。とりわけ魅了されたのが、透明な秋の陽に輝く平壌の風景だった。

  「あまりの美しさに夢中でペンを走らせた。住む世界は違っても人間はみな同じです」

 豪快な笑い声と「大好きな酒」で世界中の誰とでも熱く心を通わせた中村さん。「平壌での個展開催」が夢だった。(粉)

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