本の紹介

希望の国のエクソダス村上 龍著

絶望の規範からの大脱出


 「エクソダス」とは旧約聖書の「出エジプト記」を指す言葉で、民族などの大移動、大脱出を意味する。

 本書の舞台は2002年の近未来。「この国には何でもあるが希望だけがない」――危機感に背中を押された80万人の中学生が学校を捨て、家を出て、インターネットビジネスを開始、移住地で通貨を発行する。

 経済危機を背景とした展開が多く、若干の予備知識を要とする場面もあるが、それらに通じていなくても、本書が描く「現代日本の絶望」は相当なリアリティーをもって迫ってくる。

 日本は敗戦から半世紀足らずで経済大国として復活したが、それを可能にした要因の1つに、「均質」を重んじる規範がある。

 だが、かつては合理的な生産による経済成長を保障したこの規範も、「豊かさ」が行き渡るにつれて、突出を嫌うだけの横並び意識に化け、なれ合いを生み、見て見ぬふりの横行を許して社会の信用が形骸化した。

 中学生たちは、そんな「規範」に支配された社会から脱出。「均質な個」を生産するだけの教育を拒否。なれ合い経済とは付き合わず、シビアな合理性で独自の「信用」を打ち立てて行く。

 歴史的使命を終えた規範は、新たな希望の探索をしばるものでしかない。そこから脱出し、次に来るテーマを見つけ出す力を持てるかどうか――あらゆる社会・組織に通じる問題だ。(文芸春秋・422ページ・税別1571円)

◇むらかみ・りゅう 1952年生まれ。作家

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