強制連行の事実、賃金未払い
国家ぐるみの隠ぺい工作
日本の公文書、GHQ覚え書きが裏付け
早期送還を指示/内務省が通ちょう
日本の植民地支配による、朝鮮人強制連行を戦争責任として問われることを恐れた日本政府が解放直後、それを回避するために組織的な事実隠ぺい工作を行っていたことが、当時の日本の公文書とGHQ(連合国最高司令部)の覚書により明らかになった。 今回、発見された公文書によると、日本政府は1945年8月31日付で、「関釜連絡船ハ近ク運航スル予定朝鮮人ノ集団移入労務者ヲ優先的ニ計画輸送ヲナシ之ニ判シテハ書面通牒スルモ差当リ次ノ如ク措置」せよと、内務省警保局保安課(暗号電報)から特高課長宛てに通ちょうした。 その「措置」とは「一、土建労務者ヲ先ニシ石炭山ノ労務者ヲ最後、二、釜山迄ハ必ず自業者側ヨリ引率者、三、輸送完了迄相当長期ヲ要ル見込其ノ間動揺セシメザルコト、四、帰鮮迄ニハ現在ノ事業者ヲシテ引続キ雇用セシメ置クコト之ガ給与ニ関シテハ書面指示ス、五、一般既住存朝鮮人ノ帰鮮取扱ハ当分不可能、従来通リ指導」とあり、朝鮮人強制連行者をどのように本国に返すかが詳しく記されている。 さらに翌日の9月1日、警保局発甲第3号、地方長官宛ての公文書「朝鮮人集団移入労務者等の緊急措置に関する件」を通して、「帰鮮せしむるまでは現在の事業主が雇用し、8月15日以降は、以下の措置」を取るよう命じている。(従来どおり就業する者について事業主は)@賃金支給は当座の小遣いを現金で払い、残りは本人名義の貯金とし事業主が保管するA将来貯金は必ず本人に渡す旨の周知徹底を図る。 強制連行被害者の本国送還は、GHQ(連合国最高司令部)の日本占領(マッカーサー上陸8月31日、9月2日、統治開始)直前から始まっており、この公文書は当時、各地で起きていた朝鮮人労働者の未払い賃金に対する抗議行動を鎮圧する狙いもあった。 しかし、実際には朝鮮人労働者に対して、1銭の賃金も支払われず、本国に送還した。だからGHQは、10月29日、「朝鮮人労働者の貯金及び分配金の朝鮮での支払い」を命じる覚書(scapin207)を出し、日本政府にその実行を促している。賃金の支払いが行われていたなら、GHQの覚書は必要がない。 一連の資料は、戦争犯罪の証人となる、強制連行されてきた朝鮮人労働者を1日も早く本国に送り返して事を収拾させようと、日本が国家ぐるみの隠ぺいを行なおうとしていた一端を見せつけている。 裁判でもあいまい 例えば日本製鉄株式会社は、国庫から当時の金額で五千万円、そのほかにも鹿島など大手建設業者らもほとんど同額の補てんを受けている。 解放後、強制連行被害者らは、日本の企業を相手に未払い賃金を巡って、相次ぎ裁判を行ってきた。 最近も、南朝鮮の元女子挺身隊員らが工作機械メーカー「不二越」を相手に、未払い賃金と損害賠償を巡って訴訟を起こした。 原告の1人は、43年から45年にかけて日本で強制労働を強いられたが、1度も賃金は支払われなかったと証言している。 この裁判は、原告らが提訴から8年たった今年、企業が総額3000万円の「和解金」を支払うことで、国家責任や、強制連行の事実も明らかにされず謝罪の言葉もないまま一応、「決着」した。 だが、前述の資料からも明らかなように国庫に供託された朝鮮人労働者に対し賃金は一銭も支払われておらず、逆に国が企業側に補てんした事実、さらには強制連行の事実を意図的に隠ペいするために、送還を急いだのである。 その事実を隠ぺいし、認めない日本政府の対応は不当きわまりない。 今回の一連の資料について、強制連行真相調査団の洪祥進事務局長は「過去の韓日条約時とは異なり、国連人権委員会、国際労働機関でも強制連行が戦争犯罪であり、時効がないとしてその責任が追及されているだけに、日本政府は朝・日国交正常化交渉できちんと謝罪、補償・賠償するべきだ」と述べている。(金美嶺記者) |