それぞれの四季

白の光景


 チョゴリは白。チマも白、あるいはグレーなどの淡い暗色のような気がする。老婦人のチョゴリは金茶色やグレーを基調にした絹織物のビーダンが多かった。

  母は紺色のビロードのチマと白いボアの肩かけを持っていたが、写真を撮るとか余程の時以外は、身につけずに大切にしているようだった。これら大切な衣類は1年に1度(土用干し)虫干しをする。幼い子らは部屋に張り巡らしたロープに吊り下がった。ナフタリンくさい衣類の森の中を探索するのが好きだった。

 白いものをより白くするために女性たちは暮らしの多くの時間を費やし、心をこめた。手洗い、煮洗い、棒で叩き洗い、のりづけして生乾きで取り込み、しわを伸ばしてきぬたで打って仕上げる。物によっては火のしをかける。子供はおもしろがって手伝うまねをするが続かなかった。これらの仕事は夜だったが、家族が寝静まった後も縫い物の手を動かすのが、かっての母親だった。

  祖国解放から翌々年ぐらいだったか、通学電車の中でのこと。相変わらずの混雑だった。ひとり白衣の老人が乗っていた。それこそ1点の染みもない白く白いバジ・チョゴリをびしっと身にまとい、き然とした姿であった。白髪と白いあごひげの風ぼうは枯れていて気品を漂わせていた。

 私はふと気づいた。込み合っている車中の回りの人々が老人に皆背を向けて顔をうつむけている。明らかに老人の回りに目に見えない空間が生じていた。付き添っている孫らしい男は面はゆげにこう然と目を上げていた。歳月が過ぎたが、これらの光景がときおり風のように美しくよみがえる。(童話作家)

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