本社記者 平壌レポート

コンピュータで新薬開発

新たな科学構造持つ物質発見し


 30代の博士が老教授たちの前で講義をする。

 「こんな若造が教壇に立つなんて、申し訳ない気がします…」

 平壌医学大学薬学部のユ・スンチョル研究員(31)は世界的にまだ知られていない新たな化学構造を持つ物質を発見し、その物質で新たな医薬品「ネオセレン」を開発した。「ネオセレン」はアスピリンとほぼ同様の効力を持つが、同じ効果を上げるのに25分の1の摂取量で済み、胃腸障害がまったくないのが特長だ。彼はその研究により、博士号を取得した。

 新たな物質に基づく医薬品の開発は朝鮮初。ユ研究員はそれを、朝鮮の医薬業界ではまだ馴染みの薄い、コンピュータによる薬品設計法で完成させた。彼が医科大学で特別講義をしているのは、この方法についての内容だ。

 「教え子でもある私の講義をみな真剣に聞いてくれます。新たな時代の流れを吸収しようという強い意欲を感じます」

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 1人で道を開拓してきた。一介の医学生だった十余年前、ある大学の化学部を訪ねて分子構造計算ソフトを手に入れた時、そこの教授たちは、医学部の学生がなぜこれを必要とするのか理解できなかった。

 「薬品設計用のプログラムではなかったので難しかった。コンピュータもまだ古いMS−DOSの時代だった。新たな物質の発見も、初めは手工業的な方法で始まったのです」

 そんななかでも、孤立無援の彼を奮い立たせたのは、医学に対する人並みはずれた情熱だった。10歳の時に事故で大怪我をし、入院。2度にわたる人工骨移植手術を受ける過程で、人々の生命を守る医学者になろうと決意する。

 同じ病室には、全国外国語学科コンテストで入賞した中学生がいた。その影響で外国語を学び始め、これまで英語、日本語、ロシア語、中国語を習得。語学知識も大きな力となった。

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 彼が医学生だった頃、コンピュータによる薬品設計法を導入している機関はなかった。彼は、人民大学習堂(平壌にある朝鮮最大の図書館)に毎日のように通い、外国で出版された関連書籍を読み漁った。

 教授たちは彼に、「新薬を開発するには10年の歳月と10億ドルの費用がいるというのが世界の定説だ」と言った。しかし、経験主義の古い枠にとらわれない若い医学生は「既成の理論をそのまま受け入れるだけでは発展がない」と、新たな挑戦を続けた。

 やがて彼の情熱が、コンピュータと医学の技術を1つに結び付けた。そしてその結実である新薬の開発は、医学研究の現場に衝撃を与えた。

 今年春に開かれた全国科学者・技術者大会に参加した医学大学からの代表は、その半数以上が30代だった。朝鮮の将来を占う「科学重視」政策を支えるのは、こうした若い新世代の人材だ。

 「以前は若い研究者に厳しかった老教授に、『もうお前たちの時代だ。私たちがバックアップするから、必要なことは何でも言いなさい』と言われた。これからももっと新しいものをたくさん学び、がんばらなくてはと思う」(金志永記者)

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