開設3年
上野の同胞法律・生活センター
相談2千400件 親身の相談に信頼
相続・国籍など民族固有の問題で実績 地域の相談綜合センターとも連携 東京・台東区上野にある「同胞法律・生活センター」が、29日で開設満3年になる。同胞の間で世代交代が進み、定住化へと意識が変わるにつれ、生活面でも複雑で多様な問題が生じるようになり、適切なアドバイスを求める同胞の声は日増しに高まってきた。こうした要求を受けて開設された法律センターはこれまで、弁護士、司法書士、公認会計士などの同胞専門家と日本人弁護士の協力を得ながら、3年間で2400件もの大小の問題解決に当たってきた。さらに各地で100以上も開設されている同胞生活相談綜合センターとの連携を持ちながら、専門家集団としての役割をたかめ、法律部門でのサポートを行っている。 これまでどこにも相談できなかったという同胞が、同胞法律センターの門をたたいた、というケースは1人、2人ではない。 法律センターが同胞から信頼を得ているのは、そこに行けば、日本社会でも幅広く活躍し、専門知識を持つ同胞弁護士や司法書士、公認会計士らが親身になって相談に乗ってくれるという安心感があるからだ。 法律センターで相談にあたる相談会員および協力会員の数は、この3年で30人となった。 在日同胞は、就職難や日本経済の不況、福祉、高齢・少子化問題などで日本人と同様の不安と同時に国籍、相続、国際結婚、教育など、より複雑で固有の問題をも抱えている。 同胞固有の問題は、日本人の専門家や役所の窓口で相談しても要領を得なかったり、逆に誤った情報を与えられ、問題が複雑化することも少なくなかった。 だからこそ、心の底から悩みを打ち明けられる同胞の相談所は、同胞自身の切実なニーズでもあったといえる。
「韓国」籍同胞も 相談の内容は、民族固有のものが7割を占めている。 なかでもいちばん多いのが、相続の問題で、遺言の作成などを含めると321件にものぼる。ついで金銭貸借253件、結婚・離婚160件、国籍153件、在留資格128件と続いている。 相続の問題は、同胞の場合とりわけ複雑になるケースが多い。例えば、遺産の名義変更をする際、日本の法務局から戸籍添付を求められているが、どうすればよいのかといったものや、親、兄弟が南北、日本に別れて住んでいるため、相続人の国籍表示がそれぞれ異なり、遺産の分割や処理に困っているといった相談などだ。 また国籍問題では、日本人との国際結婚に関連した子どもの国籍や手続きに関すること。または「韓国籍」から朝鮮に変えたいというケースと、その逆。さらに、民族教育を受けながら、母親の日本国籍を受け継がざるを得なかった事情により、日本国籍となっている同胞の相談などだ。 国籍に関しては、1つには個人的な家庭的理由もあるが、ここまで複雑化している背景にはやはり、日本の植民地支配と、その後の日本の在日朝鮮人政策、「韓国」一辺倒政策によるところが大きいといえるだろう。 したがって、1人の専門家で対処できない複雑で複数の分野にまたがる問題も、横のつながりや情報交換によって解決に当たれる態勢を整えることが求められている。 現在、活躍している同胞専門家はもちろん、日本の社会で埋もれている同胞、これから資格取得を目指す同胞にいたるまでを1つに網羅し、法律専門問題での常設センターとしての役割を果たすことで、こうした同胞のニーズに広く応えようとしている。そして、各県、各地域に開設された同胞生活相談綜合センターとの連携を強めながら、同胞の相談に関する解決方法を広く共有していくことを目指している。(金美嶺記者) [3年間に寄せられた相談の内容別件数]
[相談員の声] 同胞の立場で協力/梁文洙(弁護士) 金銭貸借に関する相談で、きちんとした金融機関から借りられない同胞が、ヤミ金融や身内から借りた結果、きちんとした貸借の文書もないため、トラブルが生じるケースがある。 まだまだ同胞の生活状況は厳しいというのが実感だ。 また、1世、2世は日本社会で苦労してきているので、問題が生じた時、少しでも譲歩するようなことになると納得しない。同胞弁護士として、気持ちは理解できるが、裁判で法律論を度外視して自分の言い分を言っても、相手に通用しない場合がある。 そうなると、説得するのに日本人に比べて時間がかかることもある。だが、日本人の弁護士では対応が難しい問題をセンターを通して、協力できればと思っている。
根底に同胞の特殊性/ 毎週1回、法律センターに顔を出しているが、相談の範囲の広さに驚かされる。 日本人と国際結婚した場合、支部は訪ねにくいが法律センターなら、と思うのかも知れない。彼らの中には、同胞のセンターに来なければ、子どもは日本の国籍になっていたというケースもある。 そのほかにも親の資産を受け継いだが、これをどう有効利用すればいいのか、といったトータル的なものや、リストラや脱サラなど日本人同様、給与所得者なら誰もが悩む問題も相談を受ける。 同胞だからこそ、内情もわかるし、親身になれる。 よくよく聞けば、根底には、どこかに同胞の特殊性が潜んでいるのかも知れない。相談に来た人には、その根っこの部分を親身になって聞く必要がある。 改めて権利の意味知る/宋民子(行政書士) 同胞たちは総聯、民団に関係なく訪ねてくる。自分たちにとって必要なアドバイスをしてくれるなら、団体は関係ないというのが、最近の傾向で、ますますその傾向は強まると思う。 最近相談が多いのが、ニューカマーの女性たちだ。パスポートの問題や、離婚についてもある。 例えば、短期ビザで来たが、在日同胞と結婚することになったので、手続きをどうしたらいいのか、といったことなど。 そうした相談を受けながら、特別永住という資格のもつ意味を改めて実感することがある。まだまだ完全ではないが、これは、在日同胞1世が運動を通した歴史のなかで獲得したものだ。これまで気付かずにいたことを改めて実感させられる。 |