三木睦子 新作きもの展

朝鮮刺繍でよみがえった平安美人

朝・日の伝統美を融合


 悠久の時を経て、いにしえより脈々と伝えられてきた朝鮮の刺繍(ししゅう)と日本の染めの技術。朝鮮半島と日本が誇る世界最高峰の伝統美が、三木睦子さんのデザインによってこのほど、日本の着物の中で見事に融合され、新しい命を吹き込まれた。11月下旬、東京・渋谷の三木武夫記念館で開かれた「伊勢物語の世界」と題する「三木睦子 新作きもの展」をのぞいて見た。(朴日粉記者)

華麗な「伊勢物語」の世界

 三木さんがデザインした着物は3点。朝華(株式会社マンギョンボン商事=文斗萬社長)の依頼を引き受けて、製作されたもの。三木さんは「李朝時代の刺繍展を数年前に見て以来、そのたおやかな幽玄な美しさに引かれてきました。この素晴らしい技術と日本の染めを何とか出会わせて、着物にしたいと思っていました」と初めてデザインを手掛けたきっかけを語った。

 着物のテーマを「昔、男ありけり」で始まる伊勢物語から引いたのは、三木さんが友人たちと長年この物語の勉強会を開いてきたため。多忙極まりない暮らしの中で、優美さを失うことなく凛(りん)とした姿勢を貫く三木さんの日常を伺い知ることができよう。

 三木さんの新作着物の大胆な茜色に花暦貝合せ文様の刺繍、雅な平安美人の長い黒髪と12単衣。いずれも朝鮮民主主義人民共和国の最高の刺繍職人2人ずつのペアーによって2ヵ月程かかって仕上げられたもの。工芸技術に詳しい、伝統芸術サポート、有限会社港也代表山村榮宏さんは「こんなに素晴らしい刺繍は、もう今の日本では作れません。気の遠くなるようなち密な作業と手間、技術があってはじめて可能な仕事です。女性の黒髪を表すのに何万本の糸を使っています。だからこそ、あれだけの立体感がうまれるのでしょう」と作品の前でため息をもらす。

 三木さんは今年83歳。南北統一を支援する「アジアの平和と女性の役割」呼び掛け人のほか、国連婦人会会長、アジア婦人友好会会長などの重責を担い、内外で活躍している。政財界に知己も多い。

 「怒りだすと私はキリがなくて、親戚のものが私を『大久保彦子』さんと呼ぶのですが(笑)…」と語るほど、昨今の政治社会問題に警鐘を鳴らし続ける。

 とりわけ、朝鮮の統一問題については深い関心を寄せ、献身してきた。92年に続き、金日成主席逝去直前の94年に主席と会見した三木さんは主席の朝鮮統一への信念と情熱に心から感銘を受け、その後も信義と誠意を尽くして日朝の国交正常化に尽力してきた。こんどの「新作きもの」のデザインもこうした活動の一環であり、伝統文化に深い素養を持つ三木さんならではの「スーパーレディー」ぶりを示すもの。

 三木さんは昨年、国旗・国家法が成立した直後、このことに不快感を露にしながら「私はけっしてそんなに小言ばかり言いたいわけではありません。でも何かにつけてむらむらと怒りが起きてきて、ついつい言ってしまうのですが、ほんとうは、穏やかなやさしい、縁側でネコを抱いていられるような私になりたい、したい、そう思うのです」と語っていた。その願い通り、新作きものに描かれた草花は、三木さんが愛してやまない自宅の庭に四季折々に咲く姿をスケッチしたもの。その心を込めた平和への祈りが、日朝の優れた職人たちの手によって、今、大輪の花を咲かせたと言えよう。

 問い合わせ=株式会社マンギョンボン商事(MGB)。рO6・6413・2143。

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