それぞれの四季
理不尽な死
全佳姫
彼は優しく温和で正義感の強い高校生だった。大きな体が机におさまりきらず、いつも片足が横に飛び出ていた。注意すると素直に足をひっ込め、窮屈そうに体を折り曲げる彼のしぐさが、今でもまぶたに焼き付いている。
もう、6年も前の話になる。新米教師だった私は毎日充実した生活を送っていた。授業も生徒との触れ合いも何もかもが新鮮で楽しかった。中でも彼がいた当時の東京朝高3年2組の生徒たちとは妙にうまがあい、クラスにはいつも笑いが絶えなかった。明るく元気に満ちていた3年2組。その中で口数こそ少なかったが、大きな存在感があった彼。 その彼らの思い出が、一気に押し寄せてきて、目の前が真っ白に濁ってしまった。涙がとめどなく落ちてくる。 日曜日の朝、遅い朝食をとりながら、何気なくつけたテレビのニュースで私はその事件を知った。 蛇行運転をしていた暴走族と思われる約30人のグループに襲撃された彼は金属バットで頭を殴られ、袋叩きにされた上刃物で刺され殺害された。無機質なアナウンサーの声が、彼の死を伝える。あまりにも理不尽な惨い結末。 その後、数日間私は完全に自分を失ってしまった。何をやるにも力が入らない。歩いていても仕事をしていても、気がつくと両ほおがべったりとぬれている。買い物、掃除、炊事と忙しく動き回り、気を紛らわそうとするが、全然、駄目だ。夜も眠れない。 今はただ、彼のめい福を祈るばかり。憎しみも怒りも恨みも、ぐっと腹の中に押し込み、犯人全員逮捕のその日まで待つのみである。(事務員) |