そこが知りたいQ&A
「文藝春秋」12月号の記事の真偽は?

まったくのでっち上げ

朝・日改善、北南和解阻止がねらい


 Q  「文藝春秋」12月号が、「金正日『幹部会肉声』を世界初公開」と題する記事を載せた。金正日総書記の「発言録」は、本当に存在するのか。

 A 本紙編集部が調査した限りでは、存在しない。したがって、「文藝春秋」の「幹部会肉声」は、でっちあげということになる。

 Q でも、「発言録」の内容は、具体的で信ぴょう性があるように見えるが。

 A そこが、このでっち上げ記事の極めて悪質なところだ。

 まず、記事の内容を詳細に分析すると、金正日総書記のこれまでの労作や労働新聞の論評などを巧妙に盗用して、それを「発言録」に仕立て上げていることがわかる。

 たとえば、「自主性がなければ国は滅びる。東欧の社会主義国は政治的自主性がなく、大国のいうがままになって滅びた」という部分。「文藝春秋」(181頁)は1999年2月4日の「発言録」としているが金正日総書記が94年10月16日に、朝鮮労働党中央委員会責任幹部と行った談話を引用したもので、一言一句違わない。

 また、99年6月20日の「発言録」としている「ヨーロッパ駐屯米帝侵略軍をはじめとしたNATOの戦略兵器はわが共和国にミサイルの照準をあわせている」という部分は、祖国統一研究院の99年9月14日付白書からの盗用だ。

 ざっと確認しただけでも巧妙な盗用は、35ヵ所にもなる。

 とくに悪質なのは、金大中大統領と日本の天皇に関する部分。これはまったくのねつ造で、これを金正日総書記の「発言」とすることによって、一般の南朝鮮市民、日本市民の感情を逆なでする効果を狙っている。

 Q ほかからの引用であっても、「発言録」には変わりないではないか。

 A 大いにある。とくに時事問題では、その発言がいつなされたかが、たいへん重要だ。

 朝米関係を例に挙げると、朝米対話が始まる前と後では、その内容が全く違う。金正日総書記は、米国を100年来の宿敵とは見なさない、と97年に明らかにしたことがある。したがって、それ以前と以後とで、米国に対する発言内容が違うのは当然だ。だから、94年の発言を99年の発言だとでっち上げるのは、意図的で悪質な行為なのだ。

 それからもう1つ問題なのは、総書記の労作や労働新聞論評のある部分だけを抽出し、その前後に執筆者の「解説」を加えることによって、労作の本来の内容を完全にわい曲していることだ。引用している部分だけを素直に読めば何ら問題がないのに、前後の「解説」を通して読者に「北朝鮮は恐ろしい国」というイメージを植え付けようとしているのだ。

 Q 執筆者が「ワシントン分析チーム」となっているが。

 A 記事に信ぴょう性を持たせるための苦肉の策だと考えられる。

 朝鮮と関連したでっち上げ記事は当初、ソウル発が多かった。南朝鮮の情報部がデマを流し、それを日本のマスコミが報じるという構図だ。

 ところが、デマ情報というのは、時間が経過すると真っ赤なウソだったということがすぐに分かる。その典型例が86年11月の「金日成主席死亡説」。ソウル情報に日本中が振り回された。

 結局、ソウル情報=安企部=謀略という構図が明らかになり、人々はそれを信用しなくなった。

 そこで登場したのが北京情報だ。中国は朝鮮と仲がよいので、信ぴょう性があるというふれこみだったが、これもまた、安企部の工作だったことが判明し、馬脚を現す結果となった。

 今回、ワシントンを持ち出した背景には、こうした謀略の歴史的経緯がある。今後も、ワシントンがだめならモスクワ情報とか、手を替え品を替えてデマ情報を流すだろう。

 Q 「文藝春秋」が謀略記事を掲載した目的はなにか。

 A 金正日総書記の権威を失墜させ、朝・日国交正常化を阻止することだろう。

 周知のように今年6月、金正日総書記と金大中大統領との歴史的出会いが実現し、総書記の人柄が全世界に放映された。百聞は一見にしかずで、総書記が聡明な指導者だということが広く知れ渡り、逆に総書記に対して誹ぼう・中傷を繰り返していた連中は発言力を失った。その失地を挽回しようと試みているのだ。

 もう1つは、朝米の進展によって、日本が窮地に立たされていることと関連する。

 10月に趙明禄・朝鮮国防委員会第1副委員長が金正日総書記の特使として米国を訪問し、朝米共同コミュニケを発表した。

 このコミュニケは、これまでの敵対関係に終止符を打つ歴史的文献で、今後朝米は、クリントン米大統領の訪朝、朝米国交樹立という道を歩むと思われる。

 朝米の進展に日本政府は焦りを感じており、少なくとも朝米修交直後には朝鮮との関係を改善したいと考えている。こうした朝・日関係改善の動きに歯止めをかけるのが、謀略記事の狙いだろう。

 また、「文藝春秋」の記事を南朝鮮の朝鮮日報が紹介し、同社で発行している月刊「朝鮮」が転載したという事実は、北南の和解に対しても冷水を浴びせようとしていることが分かる。わざわざ金大中大統領を名指しで非難しているのもそのためだ。

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