みんなの健康Q&A
内科―かぜ
初期慎重な診察を / 安易な自己診断は禁物
東野内科クリニック 院長 金優
Q 最もポピュラーな病気の一つであるかぜの季節ですが、どのような患者さんが訪れますか。
A 「かぜ」という病名ほどあいまいで、いい加減に使われているものはありません。「かぜ」は、新患の患者さんの半数以上を占め、医者が最も多く遭遇する疾患です。「くしゃみや鼻水が出る」とか、「せきやタンが出る」「寒気がする」「体が熱くだるい」「頭痛、全身の関節、筋肉が痛い」などの症状を自覚した患者さんは例外なく、「かぜをひきました」と自己判断して治療を求めてきます。 また、「吐く、下痢、腹痛」などの症状が出ると、「今はやりのかぜはおなかにくる(俗に「胃腸かぜ」と言う)」といった具合に「かぜ」という言葉が日常生活の言語として、不用意に使われ定着してしまっています。 残念なことに実は、いわゆる「かぜ症状」を訴える患者さんを治療する医者までもが、安易に「かぜ」とか「胃腸かぜ」という診断を安売りしている傾向も否めません。 医者にかかるのはまだましな方で、多くは置き薬のかぜ薬を飲んだり、近くの薬局で買い求めたりして、初めから医者の門を叩く人は意外に少ないのが現実です。「かぜ」は本来、数日以内に治るあまりにもありふれた病気だから、症状を自覚した患者さんが自分で勝手に「かぜをひいた」と自己判断してもそれほど間違うこともなく、大事に至らずに過ぎているようです。 Q 具体的な症状は。 A 「かぜ」という言葉は古くから日本で使われてきた俗語で、医学的には「かぜ症候群」と称され、繁用されています。この「かぜ症候群」は、日常診療上もっとも多く見られる病気で、@くしゃみ、鼻じる、鼻づまりなど鼻腔(はな)の症状Aのど痛、かれ声、せき、たんなど咽喉頭(のど)の症状B全身の寒気、けん怠、熱感、関節痛、筋肉痛、頭痛など発熱の症状が色々な組み合わせで現れてくる症状の集まり(症候群)を意味しているのです。 つまり「かぜ」は上気道(空気を呼吸する上半部、すなわち鼻腔と咽喉頭)を侵す炎症性疾患と考えられ、その原因としては数百種類にもおよぶウィルスによる感染が圧倒的に多いことが明らかにされています。 このようにウィルス感染によって発病する「かぜ」は、数日のうちに病因ウィルスに対する免疫を獲得した後、基本的には一週間程度で自然に治癒するself limited disease(病気の経過がある一定の期間で終息する傾向を持った疾病)であり、医学的に予後の良い「急性ウィルス性上気道炎」と定義付けられます。 Q 「万病のもと」と言われる根拠は。 A 「かぜは万病のもと」とは従来から広く知られている言葉ですが、多くの人たちの「かぜ」に関わる苦い経験から生まれた言葉でしょう。現代医学的にみてみますと、まず第一に「かぜ」そのものは、ウィルス感染症が上気道に限局したものすが、上気道炎の経過中、二次的に細菌が上気道周辺に広がり、副鼻腔炎、中耳炎、扁桃炎、気管支炎、肺炎などを引き起こすことがあり、これらは純粋に「かぜ」の合併症です。 第二に、日頃は何ら症状を示さない慢性疾患、例えば呼吸器疾患(気管支ぜんそく、気管支拡張症など)、心臓病、腎臓病、糖尿病などが「かぜ」をきっかけに病状が悪化したり、顕在化することがあります。 第三にもっとも深刻かつ重要な例として、上気道、すなわち鼻や咽喉頭の症状がないのにもかかわらず、「全身けん怠」「悪寒・戦りつ」「頭痛、関節痛、筋肉痛」などという発熱だけの症状で、安易に「かぜ」と診断されたが、なかなか治らず、日が経つにつれ「かぜ」とはまったく別の重い病気(急性腎盂腎炎、急性ウィルス性肝炎、急性ウィルス性心筋炎、ウィルス性脳炎、化膿性脳脊髄膜炎、急性骨髄性白血病など)であることが明らかになったという事例です。 これら発熱性疾患の多くは病気の初期に充分な問診と慎重な診察のうえ、もっとも簡単な尿検査や血液検査(白血球数、肝機能、炎症の程度を示すCRPや血沈など)、また胸部レントゲン写真くらいの検査データがあれば、早期に正しい診断や診断のしぼり込みが可能なのです。 ただ安易でいい加減に、熱があるから「かぜ」と診断されていたために正しい治療が遅れる第三の場合がまさに、決して「かぜは万病のもと」ではなく、「かぜは重病の誤診のもと」になっているのです。(春日井市東野町2―12―12 TEL 0568・84・8080) |